阪大ら,SiC接合材の自己修復現象を発見

エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトにおいて,大阪大学とデンソーは,SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体の長期信頼性向上が期待できる接合材の自己修復現象を発見した(ニュースリリース)。

電力変換器等のパワー半導体応用製品において,故障の主要因は接合部の剥離といわれている。特に高い信頼性が求められる自動車応用では,接合部の寿命が重要な要素となっている。

大阪大学とデンソーは,SiCパワー半導体の長期信頼性向上が期待できる接合材(銀焼結材)の自己修復現象を発見した。発見した現象は,銀焼結材の接合層中に生じる亀裂が高温の機器動作環境下で自己修復するというもの。

この発見により,銀焼結材の実用化における課題であった剥離寿命について,自己修復によって解決できる可能性を見出し,自動車分野への適用可能性を大きく高めた。また,銀焼結材は,高耐熱性,低損失性に優れるため,SiCパワー半導体の適用拡大も期待できるという。

マイクロサイズとサブミクロンサイズのハイブリッド銀粒子ペーストを用い,250℃の低温で30分間の大気中の接合プロセスにより,ダイアタッチ接合構造が得られる。この接合プロセス(銀ペースト焼結接合法)は,広く行なわれているナノ粒子を用い高圧を付加する接合プロセスと比較して,ハンドリングが容易,格段に原料が安価,強度40MPa以上(はんだ接続より高い),熱伝導率150W/mK以上(はんだの5倍以上),無加圧か1MPa以下の低圧で処理が可能,という特長がある。

実験では,銀粒子を高密度に焼結し,引張り試験片を作製した。この引張り試験片にノッチ加工を施し,さらに僅かな引張荷重を掛けることで,ノッチの先端に鋭い亀裂を導入した。この試験片をSiCパワー半導体の動作温度を考慮して,大気中で200℃,及び300℃で保持し,亀裂先端の変化の様子と試験片の引張り強度変化を調べた。

SEMで観察したところ,亀裂導入初期には初期亀裂が大きく開いているのに対し,200℃で保持した場合には明らかに亀裂が閉じつつあり,先端の鋭い部分が焼結して閉じ,その他の部分も接触して接合が始まっていることが伺えた。また,さらに300℃に温度を上げると,同じ部分は広範囲に亘って亀裂が閉じ,亀裂の自己修復現象がより明確になっている。

この亀裂先端の焼結鈍化現象に伴って,亀裂がない試料は,時間と共に僅かに強度が減少するが,これに対し亀裂導入試験片は,初期状態から明らかに回復が見られ,100時間保持後はほとんど亀裂を導入しない試験片と同等のレベルに到達した。

関連記事「早大,クラックを自己修復する金属配線を開発」「東工大,ファイバーの自発的成長による配線に成功」「東大,SiC上の絶縁膜を理想に近づける改質手法を開発