岡山大,光化学反応による巨大π電子系フェナセンの合成とトランジスタの作成に成功

岡山大学とナード研究所の研究グループは,8個のベンゼン環が連なるフェナセンを,光化学反応(Mallory 光環化反応)をキーステップとして簡単に合成することに成功した(ニュースリリース)。それにより,π電子系を拡張したフェナセンのOFETを作製するのに必要な量の試料を得ることができ,トランジスタ特性の評価が可能になった。

さらに,フェナセンを酸化シリコン薄膜上に蒸着して作製したOFETデバイスは,1.74 cm2 V-1 s-1 の電界効果移動度を実現し(平均移動度は1.2cm2 V-1 s-1),アモルファスシリコンと同等の性能が実現された。また,イオン液体をゲートキャパシタとして用いる電気二重層トランジスタデバイス(EDL FET)では有機薄膜トランジスタとしては極めて高い電界効果移動度(平均移動度で8cm2 V-1 s-1)と,低電圧の駆動を達成することに成功し,巨大π電子拡張系フェナセンの電子材料としての有望性を見いだした。

巨大π電子拡張系フェナセン類は,空気中で極めて安定で,従来用いられてきたペンタセンなどのアセン型分子より,有機エレクトロニクス材料として有望。また,ベンゼン環を拡張したπ電子系のトランジスタ特性が良好であることがわかったので,さらに大きなベンゼン拡張系分子を使ったトランジスタに期待がもたれる。

一方,これまで,ベンゼン環を多数繋いだ分子を作製することは難しかったが,今回の方法によって簡単に拡張分子を作製できたことは,これまで研究がなされてこなかった「ベンゼンが多数繋がった拡張π電子系分子」のトランジスタ特性を研究することに道を切り開いたことになる。今回の合成手法は今後,さらに大きな拡張π電子系フェナセン分子の構築をサポートし,フェナセンの化学と物性の研究に寄与するとしている。