月刊OPTRONICS 特集序文公開

光でとらえる,動かす 未来社会を変えるロボティクス

ロボットフォトニクス  最近のトレンド 著者:産業技術総合研究所 村井健介

1 はじめに

1.1 ロボットとロボットフォトニクス

約100年前に生まれたロボット(robot)という単語は,工学の発展により具現化し,今では製造産業だけでなくサービス産業へと展開している。近年,人工知能(AI)が著しく進展しているが,フィジカルAI(Physical-AI)によるロボットの進展にも注目が集まっている。
 我が国では,経済産業省のロボット政策研究会が「ロボットは,センサ,知能・制御系,駆動系の3つの要素技術を有する,知能化した機械システム」として,広く定義している。

現代のロボットには光技術が幅広く利用されており,光技術抜きには成り立たない状況にある。例えば,センサ系ではLiDAR,ステレオカメラ,サーモビジョンなど,駆動系ではロボットアームにレーザーを搭載してレーザー溶接作業などが実用化している。これら以外にも,Li-Fiと呼ばれる光空間通信が移動体通信としてのロボットへの応用が期待できる。このように,ロボット技術(robotics)と光技術(photonics)の融合分野である「ロボットフォトニクス(robot-photonics)」は新しい産業やイノベーションを起こす可能性がある。

1.2 ロボットフォトニクス技術専門委員会1)

一般社団法人レーザー学会では,「ロボットフォトニクス」の分野を先導することを目指して,「ロボットフォトニクス」技術専門委員会を2018年にスタートしている。本技術専門委員会は,ロボットフォトニクス分野を先導し,ロボットフォトニクス産業の発展や共創人材の育成に貢献することを目的としていて,フォトニクスによるロボットの高度化とロボットサービスの開拓を志向して,インフラ老朽化対策,第一次産業対策,ヘルスケア対策(防災含む)などの社会課題に着目している。

2 ロボットの開発状況とロボットフォトニクスの将来展望

2.1 ロボットの開発状況

 製造業界では,製造現場の労働力不足を補うために産業用ロボットの導入が以前から進んでいる。例えば,自動車産業ではロボットアームが組立てだけでなく,レーザーを搭載した溶接も実施されて,作業者の安全を確保するために測域センサが開発され,LiDARへと発展してきた。近年,人と同じ空間で作業できる「協働ロボット」も開発され,半導体産業や電池産業などでも生産性の向上に役立っている。

また,製造現場以外では,掃除・警備・配膳・物流・コミュニケーションなど次世代ロボットの導入が進んで,新たなロボットサービスが開拓されている。例えば,物流業界では,無人搬送車(AGV;automatic guided vehicle)や自律走行搬送ロボット(AMR;autonomous mobile robot)が物流倉庫内で導入されて,省力化と高速化に貢献している。また,飲食関係でも配膳ロボットも開発され,少子高齢化社会における新たなマンパワーとして,着実にビジネス展開が進んでいる。さらに,ドローンは離島や過疎地への配送にも,農業分野で農薬散布や農作物の生育モニタリングにも活用されている。建設や土木の作業現場でも遠隔操縦や無人施工への取組みが進んでいる。

2.2 ロボット展示から見た開発動向

2025年大阪・関西万博でも,シグネチャーパビリオン「いのちの未来」では人とアンドロイド・AIが共存する50年後の未来世界の体験やロボットと人の共生,ロボット&モビリティステーションでは“ロボットと人が共存できる環境”を会場内に構築し,ロボットによる施設内搬送・案内・清掃・警備といったサービス等を実施または展示することで,日々の生活の豊かさにロボットが寄与する未来の具体的なイメージ(ロボットエクスペリエンス)が提供された。

また,最近の国際ロボット展2025(iREX2025)では,協働ロボットに加えて人型や動物型のロボット展示が増えた。人型ロボットは人間工学に基づいて道具の利用が可能であり,動物型ロボットも点検や運搬など様々なシーンでの利用が期待でき,エンターテイメント的な利用だけでなく様々な作業支援へと展開できるだろう。

2.3 ロボットフォトニクスの将来展望

レーザー学会は協賛団体として,2021年の日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会と2022年以降の日本ロボット学会学術講演会において「ロボットフォトニクス」OS(オーガナイズドセッション)を企画して学術界での関係を深めている。フォトニクス関連のセンサ系や駆動系の実装がロボットの高度化と直結しているので,新たなサービスが開拓できてロボットフォトニクス産業へとつながる。

センサ系は,光の性質を利用したフォトニックセンサがロボットの外界や内界を計測している。外界では対象物の認識・距離・温度などを,内界ではロボットの姿勢やモーター回転数などを計測している。これらのセンサの高度化(高速化・高性能化・省エネ化・軽量化など)が進むとともに,新しいセンサやセンシング技術も開発されていくだろう。波長分解画像を得るハイパースペクトルカメラによる農作物の生育モニタリングやレーザーサーチライトの応用技術などが期待されている。

また,駆動系としては,ロボットアームに搭載するレーザー溶接だけでなく,穴あけ加工や洗浄作業(バリ取り・サビ取り),トレーサビリティー用のマーキングも可能であり,これらは環境負荷も少ないので低コスト化によりさらに普及するであろう。高出力のレーザー光源を導入する場合には,作業者の安全性確保のために,将来的には遠隔操縦や無人化へと進んでいくだろう。

ロボットフォトニクス産業は,ロボットの高度化だけでなく,ロボットサービスの開拓も関係している。日本は島国であり,山林や海中の活用を進めたいが,猟師や潜水夫が高齢化し,結果として山林の保全や海中資源の利活用が遅れている。深海には水産資源や鉱物資源が豊富にあり,近年の社会情勢から深海での資源開発への期待が高まっている。深海は高い水圧が存在し,ロボットにとっても過酷な環境である。しかし,水中での無線通信は電波よりも光に優位性があるので,この分野でのロボットフォトニクスの展開が期待される。

本特集号では,ロボットフォトニクスの観点から,企業や大学の方々に最新の技術開発動向について執筆をお願いした。ロボットフォトニクスの最新の動向に触れていただければ幸いである。

参考文献

1)一般社団法人レーザー学会ロボットフォトニクス専門委員会,「光が結ぶロボットと人間の協働社会」,OPTRONICS(オプトロニクス社,2019年7月号),pp. 141-144.

むらい けんすけ
所属:国立研究開発法人産業技術総合研究所 関西センター産学官連携推進室 キャリアエキスパート/一般社団法人レーザー学会「ロボットフォトニクス」技術専門委員会 主査

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