1. はじめに
ABX3 型(A:1 価の陽イオン,B:2価の陽イオン,X:ハロゲン化物イオン)のペロブスカイト半導体を光吸収材料に用いたペロブスカイト太陽電池が低コストの塗布法で作製できる次世代の高性能太陽電池として注目されている。従来の単接合型のペロブスカイト太陽電池では,世界最高の光電変換効率は26.9%と,理論限界に近い値にまで向上している。この単接合型の放射限界を超えて,さらに高い効率が得られる太陽電池として,異なるバンドギャップ(吸収する光の波長領域)をもつ複数のセルを組み合わせた多接合太陽電池(タンデム型太陽電池)が脚光を浴びている。
タンデム型太陽電池としては,独立した2つのセルを物理的に重ねた4端子型と,中間層を介して直列に接合した2端子型に分けられる。例として,2種類のセルを2端子型で接合したタンデムの構造を図1に示す。この場合,バンドギャップが広く短波長領域の光を光電変換するセルと長波長領域用の狭いバンドギャップのセルを,それぞれトップセルとボトムセルとして直列に接続して用いることで,単接合型に比べて,短絡電流密度は約半分程度になるが,開放電圧がそれぞれのセルの和になることで,より高い光電変換効率を得ることができる。
ペロブスカイト半導体は,塗布成膜に用いる材料の組成を反映して膜を作製でき,その組成を工夫することでバンドギャップの制御が可能である。Xサイトに用いるハライドとして,I– よりイオン半径の小さいBr– の比率を大きくすることで,広い(ワイド)バンドギャップをもつペロブスカイト太陽電池が作製できる。これをトップセルとして用いて,結晶Si やCIGSなどの従来の太陽電池をボトムセルとして組み合わせたタンデム型太陽電池が開発され,それぞれ34.6%,24.2%の光電変換効率が報告されている。一方,BサイトにSn2+ とPb2+ を混合して用いることで,1.24 eV程度まで狭い(ナロー)バンドギャップをもつペロブスカイト太陽電池も作製可能である。これをボトムセルとして用いたオールペロブスカイトタンデム型太陽電池は,低温で作製可能であり,この利点を活かした軽量でフレキシブルな高効率太陽電池としても期待を集めている。本稿では,特にオールペロブスカイトタンデム型太陽電池に焦点をあて,最新の研究開発動向を含めて紹介する。
2. ワイドバンドギャップ ペロブスカイトトップセル
図1 に示すように,2 端子型タンデム型太陽電池は,異なるバンドギャップをもつセルを,原子層堆積法(ALD)で成膜したSnO2 層と薄いAu(1 nm)などの透明な中間層を介して接合することで構成される。タンデム型太陽電池の高性能化には,まずはトップセルおよびボトムセルそれぞれの高性能化が不可欠である。

特にワイドバンドギャップセルは,オールペロブスカイト型太陽電池に限らず,全てのペロブスカイトタンデム型太陽電池に共通して用いられ,より高い開放電圧を示すセルの開発が求められている。ワイドバンドギャップ用のペロブスカイト半導体ではXサイトのBr– の比率を増加させるが,Br– の比率が20%以上になると,塗布成膜時に構成イオンが均一に混ざりにくくなるため,良質なペロブスカイト膜を作製するのが困難になる。これに対して,Pb(SCN)2 やMASCN などの添加剤を用いて成膜することで改善できることが明らかになり,ワイドバンドギャップセルを作製するための標準的な手法となっている。
しかし,これら成膜方法を用いて作製しても,太陽電池の特性としては,従来のI– リッチなセルと比べると,バンドギャップに対して得られる開放電圧が低く,電圧のロスが大きいという課題があった。例えば,代表的なワイドバンドギャップの組成である Cs0.2FA0.8PbI1.8Br1.2(1.77 eV)を用いた太陽電池セルの場合でも,得られる開放電圧は1.31 V程度と,バンドギャップに対して0.46 V程度の電圧ロスがあった。2024年に Tanらは,ワイドバンドギャップのペロブスカイト膜を,4-fluorophenethylammonium(F-PEA)と 4-trifluoromethylphenylammonium(CF3-PA)の2種類の分子で処理して表面に2D型のペロブスカイト構造を形成することで,開放電圧が1.36 V(電圧ロス0.41 V)まで向上し,これを用いたオールペロブスカイトタンデム型で28.5%を報告した。また,最近では,Tanらは,スピンコート成膜時に貧溶媒中に methylammonium iodide(MAI)と phenethylammonium iodide(PEAI)を添加することで,表面に(100)面をもつペロブスカイト膜を選択的に作製することで,セルの開放電圧は1.37 V(電圧ロス0.40 V)に向上し,これをトップセルに用いたオールペロブスカイトタンデム型で29%を超える光電変換効率を報告している。
3. ナローバンドギャップ ペロブスカイトボトムセル
ABX3 型ペロブスカイトのBサイトとして,Sn2+ とPb2+ を混合して用いることで,1060 nmもの長波長領域にバンドギャップ(1.24 eV)をもつペロブスカイト膜が作製できる。しかし,BサイトにSnを含むペロブスカイト半導体は,Sn2+ が酸化されやすいことに起因して,高品質なペロブスカイト膜を作製することが困難であった。早瀬らは,GeI2 を添加剤に用いることで,21%を超えるSnPb 混合型ペロブスカイトセルが作製できることを報告した。また,我々は,TM-DHPという還元剤を用いたSn4+ スカベンジャー法を開発し,これにより高品質なSn系ペロブスカイト半導体膜が作製できることを報告している。本手法とMaltolを用いた表面処理を組み合わせることで,SnPb 混合型ペロブスカイトセルで21%を超える光電変換効率を得ている。さらに我々は,ペロブスカイト層の上下表面をそれぞれの電荷の取り出しに有利になる双極子をもつように表面修飾することで,最大で0.91 V(電圧ロス0.34 V),23.6%の光電変換効率を達成している(図2)。

我々が提唱するこのダイポール戦略とは,ペロブスカイト層の上面を,ethylenediammonium diiodide(EDAI2)で処理し,電子回収層との界面にδ +の双極子をもつ分子を配置することで,電子の取り出し効率が向上し,開放電圧を向上させることができるというものである。本手法は,SnPb型だけでなく,Pb型やSn型およびワイドバンドギャップ型など様々なペロブスカイト太陽電池に有用であり,高い一般性をもつことが実証され,近年,ペロブスカイト太陽電池の特性向上の手法として広く用いられている。また,ペロブスカイト層の下層の界面構造修飾としては,glycine hydrochloride(グリシン HCl 塩)をペロブスカイトの前駆体溶液に添加することで,選択的に下層にグリシンを配置できることを見出している。
最近我々は,この下層の界面構造修飾法の改良版の開発にも成功している。添加剤としてアミノ酸基とカルボン酸基を分子内に併せもつフェニルアラニンを前駆体溶液に用いることで,より高品質なSnPb 型ペロブスカイト膜が作製できることを見出した(図3)。各種分光測定の結果と理論計算により,塗布成膜過程でのフェニルアラニンがどのようにペロブスカイトの構成イオンと相互作用し,埋もれたペロブスカイトの下層の界面を選択的に構造制御するのかについて,化学的な視点からそのメカニズムの詳細を解明した。この手法で得られた高品質なSnPb 型ペロブスカイト膜を発電層に用いて作製した,単接合セル,2 接合型タンデムセル,および3 接合型タンデムセルの各デバイスでは,それぞれ0.91 V,2.22 V,および3.46 Vの開放電圧が得られ,23.9%,29.7%(認証値 29.26%),および28.7%の光電変換効率を達成した。また,1 cm2 のサイズの3 接合デバイスでも,28.4%((国研)産業技術総合研究所(AIST)にて27.28%の認証値)の光電変換特性を得ることができた。さらには,初めて4 接合型のペロブスカイトタンデム型デバイスまで作製し,4.94 V もの高い開放電圧と27.9%の光電変換特性が得られることを実証することができた。

4. ダイポール戦略と電荷回収材料
従来の正孔回収層材料としてPEDOT:PSSやポリトリアリールアミン(PTAA)などの導電性ポリマーが広く使われてきた。しかし,これらの材料では一般に10 nm以上の厚膜が必要ため有機材料の欠点である伝導度および光透過性がデバイスの性能を低下させるという課題があった。これに対して,近年,正孔回収単分子膜材料に関する研究開発が盛んに行なわれている。Zhaoらが,2PACz のπ骨格を拡張した4PADCBを用いることで開放電圧が1.31 Vのトップセルと光電変換効率が27%のタンデムセルが得られたと報告している。我々も,多脚型構造をもつ独自の単分子正孔回収材料を開発し,Pb型ペロブスカイト太陽電池の高性能化に成功している。今後,これらの新たな電荷回収材料を用いることで,ペロブスカイトタンデム型太陽電池の高性能化が進むものと期待される。
5. 今後の展望と課題
以上,各材料の開発により,30%近くの高い光電変換効率を示すオールペロブスカイトタンデム型太陽電池が開発されてきた。しかし,これらの太陽電池の実用化に向けては,デバイスの安定性向上や大面積化など,いくつかの課題も残されている。ペロブスカイトタンデム型太陽電池で共通して用いられるワイドバンドギャップペロブスカイトは,イオン分布が均一な膜が得られても,光照射条件下でI– とBr– の相分離(光誘起ハライド相分離)が生じる場合が多く,ペロブスカイト膜の安定性の改善にも課題が残されている。また,タンデム型太陽電池では,各層の膜厚を精密に制御することが求められるため,デバイスの作製法の開発にも改良の余地が残されている。実際,これまでのオールペロブスカイトタンデム型太陽電池は,ほとんどがガラス基板を用いたミニセルに限られている状況にある。今後,材料開発および成膜技術の開発をさらに進めることで,フィルム基板を用いた大面積のタンデム型デバイスでの高性能化・高耐久化技術開発が進むものと期待される。
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