月刊OPTRONICS 特集序文公開

「日本発」技術で世界をけん引,ペロブスカイト太陽電池の現在地

実用化に向けて進化するペロブスカイト太陽電池 著者:桐蔭横浜大学 宮坂 力

1 ペロブスカイト太陽電池の技術の躍進

実用化へ向けてペロブスカイト太陽電池の実装試験が進んでいる。国内では積水化学工業㈱の開発してきた薄型の太陽電池モジュールは大阪・関西万博の会場に約250 mにわたって設置され,照明用の電力等に利用された。筆者らの参画する企業連携グループも環境省のカーボンニュートラル技術開発・実証事業プロジェクトの一環としてフィルム型モジュールを開発し,これを横浜港の大さん橋に数10 m2にわたって設置して耐久試験を開始した。

次世代太陽電池としてペロブスカイト太陽電池はこれまでの太陽電池にはなかった特長と性能レベルを実現している。特筆すべき点は,エネルギー変換効率(PCE)の高さであり,PCEの認証値は単結晶シリコン太陽電池の最高値と同レベルまで高まった。そして製造面においては,無機半導体膜を高温で成膜する方法と異なり,100℃程度の低温で塗布や印刷の工程を使って成膜することが製造コストを大きく低減することを可能にする。このような極めて高い効率と安価な製造法の二面を両立する太陽電池は過去には例がなかったといえる。さらに,基本物性においては,光発電の半導体であるハロゲン化ペロブスカイトは,直接遷移型の半導体であり厚さ1 μmの薄膜で光を強く吸収し,「欠陥寛容性」という稀有な固体物性に支えられて,高純度シリコンのように限りなく欠陥を低減した結晶に作り込まなくても十分な発電性能を発揮する。この特長から,高価な成膜設備を使わずに大学の研究室でも高効率の性能をもつ太陽電池素子,さらに集積モジュールまでも試作することができる。このために多くの研究者がペロブスカイト太陽電池の研究に着手し,現在は大学と企業を含めて5 万人以上の研究者がペロブスカイト太陽電池の開発に関わっていると予想する。もう1 つ,次世代太陽電池の開発で忘れてはならない観点が,使用済みの太陽電池の回収処理までを含めたライフサイクルアセスメント(以降,LCA)すなわち環境負荷の評価である。ペロブスカイト太陽電池の大きな利点はここにもある。ペロブスカイト半導体膜の回収は容易であり,廃棄にかかるコストは小さい。これはLCAにおいて製造から廃棄までにかかる消費エネルギー(炭酸ガス発生)が小さいという高い評価につながる。ペロブスカイトはまさにカーボンニュートラル社会に資する太陽電池といえよう。

ペロブスカイト太陽電池はわが国で発明された「お国の技術」であり,知識財産による研究の先導も産業化をけん引する力となっている。発明に至った歴史を述べると,塗布型太陽電池である色素増感太陽電池の延長として,2006年ころに筆者らが酸化チタン半導体電極の表面にメチルアンモニウムヨウ化鉛(CH3NH3PbI3)のペロブスカイト微結晶を析出させた電極から光電応答が得られた。超薄膜のため光吸収が微弱で発電効率は数%の程度であったが,Oxford大学との共同研究が始まりペロブスカイト結晶をμmレベルの厚い半導体膜にした結果,PCEは10%を超えた。この成果を世界中の研究機関が追試したことで変換効率は10 年足らずで急速に改善し2015年には20%を超え,そして現在,ペロブスカイト太陽電池のPCEの認証値は単結晶シリコン太陽電池の最高効率(26.1%)を凌駕する27.0%に到達している。図1 には,各種太陽電池の変換効率の進展を比較した。この発見から高効率化につながった研究背景と進みつつある最先端の技術については,筆者の書籍も参考いただきたい。

図1 太陽電池の変換効率の進展。
図1 太陽電池の変換効率の進展。

2 優れた半導体であるヨウ化鉛ペロブスカイト

2.1 有機と無機のハイブリッド結晶

ペロブスカイトは結晶形の名称であり,一般に知られる材料は金属酸化物のペロブスカイトであり,BaTiO3などに代表される強誘電性をもつ物質がコンデンサなどに用いられてきた。しかし,光発電能力を持つ半導体のペロブスカイトは,ハロゲン化物のペロブスカイトであり,その結晶構造はABX3で示される(図2)。AとBはそれぞれ1価と2価の正イオン,Xは1価のハロゲンイオン(負イオン)。Bには鉛(Pb)やスズ(Sn)が使われる。Aサイトにはメチルアンモニウム(MA)やホルムアミジニウム(FA)など有機物のカチオン,無機イオンではセシウム(Cs)が安定に組み込まれる。有機カチオンが入った構造(MAPbI3,FAPbI3)は有機無機の複合結晶である。大きな特徴は,イオン結晶であること,そして原料(A,B,X)を化学量論比で混ぜた溶液(DMFなどの有機溶媒)を乾燥させることで,この結晶が自己組織的な晶析で得られることである。この晶析と乾燥の工程制御のノウハウが結晶膜の質を決めることになる。

図2 ハロゲン化ペロブスカイト(ABX3)の結晶構造。
図2 ハロゲン化ペロブスカイト(ABX3)の結晶構造。

MAPbX3(X=Cl, Br, I)は1970年に合成されX線回折で格子構造が決定されているから,これが太陽電池用の半導体として使われるまで30年ほど要したことになる。FAよりサイズの大きい有機基では,結晶構造が等方的三次元から異方的な二次元構造に変化する。二次元では電荷移動の方向が制限されて光発電に不利となる。二次元ペロブスカイトを「半導体」の1つと考えた石原照也博士をはじめとしてハロゲン化ペロブスカイトの実験に多くの研究者が関わり,その研究交流が舞台裏で進んできたことが太陽電池の発見につながっている。

2.2 発電効率を支える優れた半導体物性

図3には,各種の太陽電池のなかでMAPbI3の太陽電池の分光感度特性を比較した。MAPbI3は主に可視光線を吸収するが,これよりバンドギャップの小さいFAPbI3では太陽光の可視光の全領域を830nm以上の近赤外の波長まで吸収する。そして,Pbに代えてスズ(Sn)を用いるペロブスカイトでは波長1000nm以上の赤外線までを吸収する。いずれも電子励起は直接遷移であるため吸光係数は105cm-1と高く厚さ1μm以下の薄膜で十分に入射光を吸収する。これによって薄い発電層によって軽量で曲げられる太陽電池の製作が可能になるわけである。これに比べて,結晶Si半導体は間接遷移吸収であるため吸光係数が1桁から2桁も低く光吸収層も10μm以上と厚い。

図3 各種の太陽電池の分光感度特性。
図3 各種の太陽電池の分光感度特性。

光吸収の強さに加えて,有利なのは組成を変えることで吸収波長を自在に調節できる点である。PbにSnを混合する,あるいは,ヨウ素(I)に臭素(Br)を混合して作る固溶体では,吸収波長すなわち半導体のバンドギャップをほぼ自在に調節(チューニング)できる。このように太陽電池の分光感度に自由度を与えることは大きな利点であり,波長の微妙な調節を行なう多接合型タンデムセルの設計ではこの能力が必須となる。図4は,MAPb(I, Br)3の系においてIとBrの混合の固溶体が示す吸収波長の変化,そしてPbとSnの混合の固溶体について,バンドギャップとエネルギーレベルがいかに変化するかを示したものであり,チューニングの容易性がわかる。

図4  ハロゲン(I,Br)を混合したMAPb(I, Br)3についてBr のモル含量に依存する吸収変化(上),Pb とSnを混合した各種のペロブスカイト組成の示すバンドギャップとエネルギーレベルの変化(下)。
図4  ハロゲン(I,Br)を混合したMAPb(I, Br)3についてBr のモル含量に依存する吸収変化(上),Pb とSnを混合した各種のペロブスカイト組成の示すバンドギャップとエネルギーレベルの変化(下)。

ハロゲン化ペロブスカイトが優れた半導体であることは,強い発光の特性に現れる。GaAsも良い例であるが,光発電に優れる半導体は発光の物性すなわちPhotoluminescenceにも優れる。MAPbBr3やCsPbBr3は大気中,室温でも90%以上の量子収率で発光する。このためLEDへの実用化も研究されている。優れた発光能力は光励起キャリア(電子と正孔)が再結合によって熱的に失活することなく長寿命であることを示し,これを可能にしているのが欠陥寛容性(defect tolerance)という稀有な物性である。ペロブスカイトでは不純物欠陥のレベルがバンドギャップの浅いところに局在するために,欠陥が電荷をトラップする不効率反応が抑えられる。MAPbI3において電子はほぼ自由電子のように再結合を逃れて固体内を移動し,その拡散距離は数μm以上に及ぶ。この長距離拡散には,欠陥寛容性だけでなく,イオン結晶内でイオンが電子と正孔を静電的に遮蔽している状況も効いており,さらに,発光と吸収が重なる特徴によって光子エネルギーが移動する「光リサイクリング」の現象も効いている。以上のような優れた光物性が,光電変換における高い性能,とくに高い光起電力(開回路電圧)につながっている。

3 ペロブスカイト太陽電池の高効率化

3.1 効率をけん引する出力電圧

太陽電池のPCE値を決める出力(W)は電流と電圧の積であり,ペロブスカイトでは電流よりも開回路電圧(Voc)の高さが高い効率をけん引している。Voc値の高さには,熱的損失を減らす欠陥寛容性の効果がはたらいており,図5は,高効率を達成するペロブスカイト太陽電池の断面構造の例である。このように結晶の大粒子が隙間無く詰まった構造では,粒子界面に分布する欠陥が電荷移動を阻害する影響が小さくなって効率が向上する。この粒子界面そして材料の接合界面の質を改良することが,現在の高効率化そして高耐久化の研究のトレンドである。界面の改善効果はVoc値に現れる。図5にはバンドギャップが1.51eVの混合カチオン型ペロブスカイトから1.2V近いVocと22%以上のエネルギー変換効率(PCE)を達成したセルの光電特性を示した。このセルではバンドギャップエネルギーからの熱的損失は,理論的限界に近い0.3eV程度(GaAsと同等)に抑えられている。Vocが基本的に高いという特長は,Si太陽電池の弱点である低光量(屋外の曇天,雨天,そして屋内の照明)でVocが下がり,発電効率が下がる特性とは対照的であり,これによってペロブスカイト太陽電池が使える光環境が大きく広がり,用途拡大につながっている。

図5  高効率ペロブスカイト太陽電池の断面構造の例(上),ならびにペロブスカイト組成Cs0.05(FA0.83MA0.17)Pb(I0.95Br0.05)3を用いるセルの光電流-電圧特性(左)と外部量子効率のスペクトル(EQE,右)。
図5  高効率ペロブスカイト太陽電池の断面構造の例(上),ならびにペロブスカイト組成Cs0.05(FA0.83MA0.17)Pb(I0.95Br0.053 を用いるセルの光電流-電圧特性(左)と外部量子効率のスペクトル(EQE,右)。

3.2 耐熱性Csペロブスカイトの高効率化

ペロブスカイト太陽電池の弱点の1つが耐熱性である。有機基を含むために耐熱性が150℃以下と低い。これに対して,有機基を含まず高い耐熱性(>300℃)をもつことが利点の全無機組成ペロブスカイトのCsPbI3-xBrxが研究されるが,発電特性においてVocの損失が大きいことが問題であった。筆者らはバンドギャップが1.9eV(700nmまでの可視光吸収)のCsPbI2Brについて,SnO2電子輸送層(メソポーラス膜,<30nm)とペロブスカイトとの界面を厚さが5nm以下の非結晶性SnOxの膜で覆って正孔ブロック能力を強め,正孔輸送材料にはp型の導電性高分子を組み合わせた。このように作製した素子(図6)では1.4Vを超える高いVocが得られる(PCE値は17%)。この高電圧化の効果として応用が広がるのが,屋内環境の可視光に対する光電変換素子である。主たる吸収が可視光にあるCsPbI3–xBrxでは,LED照明のような光量の極めて低い条件(屋外晴天下の光子流量の約1/1000)でも,1Vを超えるVocが得られる。図6の表にはこのセルによる光量依存性を示した。CsPbI2BrのバンドギャップがLED照明の波長帯域とよく一致すること,そして高いVoc値の効果によってPECは屋内照明下では34%に達する。このような素子はIoT機器の電源への応用に最適であり,ペロブスカイト太陽電池を屋内用に応用する研究開発も進んでいる。

図6  CsPbI2Brと高分子正孔輸送材料(HTM)を用いる素子の断面構造(上)と光電変換特性(下)。
図6  CsPbI2Brと高分子正孔輸送材料(HTM)を用いる素子の断面構造(上)と光電変換特性(下)。

3.3 界面の改良技術による高性能化

結晶粒子の表面ならびに電荷輸送材料との接合界面には不効率要因となる欠陥が多い。この欠陥を不動態化し,電荷移動の不効率を解消して効率を高める方法がパッシベーション(passivation)である。このパッシベーションには様々な添加剤が提案されており,その多くは図7 に示すような有機分子である。筆者らは,CsPbX3のパッシベーションに2,5-thiophenedicarboxylic acid(TDCA)を用いた。TDCA分子がヨウ素イオンの抜けた欠陥に相互作用するパッシベーションによって,CsPbI0.5Br0.5(バンドギャップ1.91 eV)ならびにCsPbIBr2(バンドギャップ1.97 eV)を用いるペロブスカイト太陽電池では,乾電池1本の電圧に近い1.51 Vならびに1.54 Vの高いVocが取り出せる。

図7 界面のパッシベーションに用いられる各種の有機分子。
図7 界面のパッシベーションに用いられる各種の有機分子。

ペロブスカイト太陽電池の性能に大きく影響するものが,ペロブスカイト層を取り囲む電荷輸送材料である。電荷輸送材料の種類とそれが接合して作る界面は耐久性にも影響する。さらに電荷輸送材料は高価なものが多い。そこで,電荷輸送材料の無いよりシンプルなセルの構造設計が期待される。図8 には,積層構造が異なる各種のペロブスカイト太陽電池を示した。積層構造は,ペロブスカイトを真性半導体の層(i),電子輸送材料をn 層(n),正孔輸送材料をp 層(p)とするn-i-pの接合構造を取り,透明電極(FTOあるいはITO)側からn-i-p と並ぶ構造が順型構造(色素増感太陽電池の延長),これに対して,p-i-n と並ぶ構造が逆型構造と呼ばれる。現在は正孔輸送層(HTL)に不安定なspiroOMeTADを用いない逆型構造が選ばれる傾向にある。このHTLを用いないセル構造として一般的となってきているのが,接合する界面を有機分子の自己組織化単分子膜(SAM)で完成する方法である。代表的なSAMがカルバゾール系リン酸化合物の(2-(9H-carbazol-9-yl)ethyl)phosphonic acid(略名2PACz)の単分子膜である。このリン酸基がITO,FTOなどの金属酸化物と強く結合して分子配向膜を形成すると,この配向膜が与える局部電場が,選択的に正孔を受け入れる機能を発揮し,太陽電池の正極を形成する(図8)。論文ではこのようなSAMを用いた界面を“buried interface”と特徴付けている。SAMを使う逆層型太陽電池は20%を超えるPCEと高い耐久寿命をもつことから,この種類の太陽電池は今後の開発の主流になる可能性がある。

図8  ペロブスカイト太陽電池の様々な積層構造(上)と自己組織化有機分子膜(SAM)を使う正極側の界面接合(下)。
図8  ペロブスカイト太陽電池の様々な積層構造(上)と自己組織化有機分子膜(SAM)を使う正極側の界面接合(下)。

3.4 多接合タンデムセルによる高効率化

タンデム化では吸収帯域の異なる複数の太陽電池を厚み方向に重ねて太陽光のスペクトルを可視光から赤外線まで分割吸収させて高効率化する。ここで使われるのがPbの一部あるいいは全部をSnに置き換えたペロブスカイトである。図4 に示したようにSnペロブスカイトのバンドギャップはPbに比べてずっと小さく,Si 太陽電池と同様に赤外線までの長波長を吸収して発電する。タンデムセルの高効率化開発は目覚ましく,Si 太陽電池とペロブスカイトの二接合タンデムセルでは35%近い最高効率が得られている。しかしSi とのタンデムでは,厚さは従来Si 太陽電池と同じであり,薄膜型太陽電池に作り込むことができない。また,Si とペロブスカイトでは発電特性(とくに低照度光に対する感度)や耐久性も異なる。そこで,Si を用いずにペロブスカイト同士をタンデム化したセルも研究され,薄膜型で製造コスも安価となる。Pbペロブスカイト(可視光吸収)とSnペロブスカイト(可視光~赤外吸収)を接合した構成のタンデムセルは30%近いPCEに届いている。多接合タンデム太陽電池が活躍する応用の1 つは宇宙衛星である。地上と違って太陽光スペクトルの変動も少ないため,タンデム化によっても安定した効率が引き出せる。宇宙衛星に搭載するモジュールは軽い必要があり,収納して折りたたんだものを風のない宇宙空間で広げて使用する。このような使い方にはペロブスカイトが有利である。

4 軽量なフィルム型モジュールの実装試験

ペロブスカイト薄膜太陽電池は,軽量で曲げられる大面積のモジュールに作り込むことができる。GaAs,CIGSなどの薄膜半導体と異なり,ペロブスカイトは150℃以下という低温で成膜できるためプラスチックフィルムを基板に使って,極めて軽いセルを作製できる。こうして作る太陽電池モジュールは,重量物であるSi 太陽電池モジュールが設置できなかった多くの場所,倉庫や工場,ショッピングセンターなどの広い屋根面積のある建物,テントや農業用ビニールハウス,そしてビルや家屋の壁もターゲットとなる。また,EV車などのように軽量で燃費を抑える目的にも合うために車載用にも用途が広がる。さらに屋外の太陽光用としてだけでなく,低光量に対しても高効率を維持するメリットから屋内照明用のIoT 機器用の電源としても高性能を発揮する。

ペロブスカイト太陽電池のプラスチックフィルム型は20%以上のPCEを多くの研究グループが達成している。筆者らはITO-PETフィルム(厚さ125 μm,シート抵抗12 ~ 15Ω/sq)を基板とする順型太陽電池で22%近いPCEを報告し18),ITO-PETフィルムにセルの電気的直列結合をレーザースクライバーによって形成することで,フレキシブルなモジュールを作製している。この成膜にはペロブスカイト結晶の印刷専用に開発したインクジェットプリンタ(ペクセル・テクノロジーズ社が商品化)も活用している。図9 は直列結合を三次元的に形成する断面,そしてこのようにして製作した小型のモジュールの例である。10 セル直列構造であり,およそ10 VのVocを出力する。

図9  ペロブスカイトの直列結合モジュールに必要な三次元構造加工(上)とこの加工で作るフィルム型10 セル集積モジュール(出力電圧約10 V,厚さ約0.2 mm,サイズ7×7 cm,重さ約2 g)。
図9  ペロブスカイトの直列結合モジュールに必要な三次元構造加工(上)とこの加工で作るフィルム型10 セル集積モジュール(出力電圧約10 V,厚さ約0.2 mm,サイズ7×7 cm,重さ約2 g)。

フィルムモジュールの耐久性には,湿気の侵入を防ぐバリアフィルムのバリア性能と封止材料の種類が大きく影響する。これらはいずれも高コストの部材である。積水化学の開発してきたプラスチックフレキシブルモジュールについて,峯元らはガスバリア能力が耐久寿命に与える影響を,高温(85 ~ 90℃)高湿度(85%)の加速試験環境で比較しており,水分吸収率として0.005 g/m2/dayのバリア能を持つフィルムを装着すると,85℃85%の保存条件ではモジュールが2000時間で効率の90%近くを維持することを報告している。しかし連続光照射下ではこの耐久性が必ずしも得られていない。

5 産業化の展望

5.1 大面積モジュールの生産

多くの企業が実用化へ向けて大面積の集積モジュールを開発している。2020年頃からは,中国の多くの企業がペロブスカイト太陽電池の事業化を開始し,現在ではペロブスカイト太陽電池を工場設備で生産するメーカーが数社現れている。GCLペロブスカイト(混山協鑫光電材料)社では2 m2サイズのガラスモジュールを製造し,これを既存のSi 太陽電池に重ねてタンデム式とする生産を開始した。UtomoLight(极電光能)社の生産するガラスモジュールはさらに大きい。メーカーの多くは重たいガラス型モジュールを生産しており,太陽光発電場への設置が目的である。国内での企業の動きは,中国とは製造のターゲットが異なり,積水ソーラーフィルム㈱と㈱東芝,㈱カネカ,パナソニック㈱,そして京都大学のスタートアップである㈱エネコート・テクノロジーズが軽量フレキシブルなモジュールの開発を進めており,既存のSi パネルとの競争を避ける事業展開をしている。積水ソーラーフィルム㈱は数10 m2サイズのモジュールを官公庁の屋外施設に設置する実証試験を活発に進めており,加速耐久試験をもとに10年以上の寿命を保証している。この実績をもとに,同社は大阪・関西万博会場のバス停屋根に長さ約250 mにわたって自社生産のモジュールを設置した。パナソニック㈱は住宅用の建材一体型のガラスモジュールを作製して展示を開始し,シャープ㈱や㈱リコーも別の用途でモジュール製作の事業展開をしている。

軽量のモジュールならば,明らかに設置可能な場所が広がる。直射光の当たらない場所でも低照度の光(曇天,雨天下の屋外光,拡散光)も利用して積算発電量を増やすことが期待できる。さらに,バッグやテントなど移動体に搭載しての発電に好都合である。EV車等への搭載では,軽量であること,そして,移動中に激しく変化する光量に対して出力の電圧が比較的安定で蓄電系への充電がしやすいことが大きな利点となる。EV車のパーツとして脱着可能なモジュールを実用化すれば,従来のバッテリーと同様に,ディーラーで使用済みモジュールの交換と回収を行なうため,5年ほどの耐久性を確保できればよいだろう。

5.2 無鉛材料の開発そして鉛の回収

ペロブスカイト太陽電池モジュールは,1 m2あたりおおよそ0.4~1 gの鉛を含む。この鉛量は生活圏の土壌の数cmの厚さに含まれる酸化鉛と同等と微量である。しかし,太陽電池中の鉛元素はイオンとして拡散性があるため,産業化には環境対策が不可欠である。ペロブスカイト半導体において鉛に代わる金属としてはスズを用いるペロブスカイトが最も高い効率を達成する。しかしスズの2価(Sn2+)は大気中では酸化されて極めて不安定なため耐久寿命に問題がある。これに対して鉛とスズの1:1の混合系は比較的安定で鉛使用量を半減できる。スズ以外の金属(Ag,Bi,Sbなど)となると,高効率化は困難な状況である。筆者らのグループでは,無鉛材料を使った太陽電池開発に注力してきた。AgIとBiI2を原料として溶液成膜するAg-Bi 系の半導体膜では,Ag2BiI5を用いたセルは3%に近いPCE値と抵効率であるがVoc値を0.9 Vに近いレベルに高めることに成功した。多結晶膜に構造欠陥が多く,電荷再結合の損失が極めて大きいためこの損失を低減することが研究課題である。また,ペロブスカイト型結晶にこだわらず安価な溶液成膜のできる新材料としてAgBiS2を用いる素子を評価した。この素子ではSi 太陽電池と同様に赤外の1 μmの波長までを吸収して30 mAcm2以上の高い電流密度を実現する。無鉛型の新材料は開発の途上にあり,今後の新発見に期待したい。

無鉛材料の開発を期待するなかで,従来の鉛型ペロブスカイトについては鉛の回収技術を確立し,それを産業でインフラ化することが必須である。ただし回収する鉛は微量であるためにこれを再利用する必要はないだろう(車の鉛バッテリー1 個から約500 m2の面積相当のペロブスカイト太陽電池を供給できる)。重要なのは,使用済みの太陽電池から鉛を環境に出さないように100%分別回収することである。回収した鉛は安全に酸化して石として地中に戻せば良い。その回収の方法であるが,薄膜を洗浄することによって,簡単にペロブスカイト材料を洗い流すことができるために,使用済みモジュールの廃棄処理にエネルギーとコストがかからないという点が,ペロブスカイト太陽電池の大きな利点である。一方のSi 結晶太陽電池では,この方法が使えないために廃棄処理が高コストとなり,社会問題ともなりつつある。筆者らのグループは鉛回収の処理方法をいかに環境にやさしい方法で行なうかを検討し,その解決策が得られたばかりである。LCAの評価において,ペロブスカイト太陽電池は,原料から成膜,組み立て,軽量モジュールの設置,そして廃棄に至るまでのトータルプロセスで最も安価な太陽電池となると期待する。

5.3 課題と展望

ハロゲン化ペロブスカイト半導体の応用は太陽電池以外にも広がる。優れた発光特性はLEDの開発につながっている。また,光検出素子への応用においてもペロブスカイトは高い感度を与える。可視光の検出,X線など放射線の検出,そして最近では二次元ペロブスカイトを使う偏光の検出が興味深い。そして応用は宇宙環境にも広がっている。筆者らはJAXAとの共同研究でペロブスカイト太陽電池が宇宙環境の放射線に対して高い耐久性を示すことを実証してきた。地球を周回する衛星の太陽電池は激しい温度変化(–100℃~+100℃)に曝される一方で,高エネルギー放射線(陽子線,電子線)に曝される。この放射線(KeV~100 MeV以上の粒子エネルギー)は太陽電池を劣化させる。ところがペロブスカイト太陽電池は,現用の衛星用太陽電池(InGaAsなどの化合物半導体)が破壊されるレベルの放射線量(50KeV陽子の1015/cm2)を照射しても依然として一部が活性を保つ。理由は,薄膜であり高エネルギー粒子の多くが膜を通過すること,そして欠陥寛容性が光物性の維持にはたらいていることによる。ペロブスカイト太陽電池の衛星ミッションへの応用は,現在,西欧,USA,中国でも進められている。

このように研究開発では様々な産業応用が進む中で,社会実装と普及へ向けたペロブスカイト太陽電池の課題については,既に述べた鉛の回収インフラの構築のほかに2 つがある。第一は耐久寿命を確保することである。高温高湿,連続光照射の加速試験をもとに寿命はすでに実用レベル(15年以上)に近づきつつあるが,産業で生産する大面積モジュールについてこの寿命を確保する技術が必要である。そして第二はコストである。ペロブスカイト薄膜のコスト/m2は単結晶シリコンのウエハの1/10程度(約200 円/m2)と圧倒的に安い。また,ペロブスカイト結晶の原料である鉛とヨウ素は国内で調達でき,必須なヨウ素は,地球上で現在採掘可能な資源の約8割がわが国にあり,その生産量はチリに次いで世界第2位(世界総生産量の約3割)と恵まれている。一方で,工場で完成するモジュールの総コストのうちで,ペロブスカイト半導体が占める割合は現状では1割に満たない。それ以外のITOなどの透明電極基板そしてガスバリアフィルムなどの封止材料を含めた部材(9割以上)のコストが高価であり,これらを安価にしなければ,シリコン太陽電池の低コストに勝つことはできない。ペロブスカイト以外の部材開発が必須の課題である。

これらの課題を凌駕し,今後,ペロブスカイト太陽電池が量産される時代が来ると,その用途は日常生活のあらゆるところに広がり急速に社会普及するだろう。電力会社のグリッドに依存しない自立分散型電力として各世帯がペロブスカイトを使う発電と蓄電を日常的に行ない,その電力をEV車の蓄電池とも連結して電力を自給自足する時代が来るに違いない。

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