東工大,大容量リチウム空気電池のグラフェン電極を開発

JST戦略的創造研究推進事業の一環として,東北大学の研究グループは,3次元構造を持つナノ多孔質グラフェンによる高性能なリチウム空気電池を開発した(ニュースリリース)。

現在の電気自動車に使われているリチウムイオン電池の電気容量では,200km程度しか走行できず,走行距離を飛躍的に伸ばすために新しいタイプの大容量の蓄電池の開発が望まれている。

近年,注目されている新しい二次電池の中に「リチウム空気電池」がある。この電池はリチウムイオン電池とは異なり,正極にコバルト系やマンガン系の化合物を用いることなく,リチウム金属,電解液と空気だけで作動し,リチウムイオン電池の5~8倍の容量を実現できるとされている。

研究グループはこのリチウム空気電池の正極に新たに開発した多孔質グラフェンを使用し,電極の単位重量あたり2000mAhの大きな電気エネルギーを持ち,かつ100回以上の繰返し充放電が可能なリチウム空気電池の開発に成功した。

正極に使用した多孔質グラフェンは,グラフェンの持つ電気伝導性に加えて,大きな空隙を持つことから,大容量の電極材料となりうることに着目したもの。現時点では,少量の貴金属を触媒に使用し,また,充電時の過電圧が大きいなどの課題は残るが,実験結果を電気自動車の走行距離に換算すると充電1回あたりで500~600kmの走行に相当する結果が得られた。

従来の電極は電気伝導性が低い炭素電極などを用いているため,エネルギー利用効率が50%程度だったが,3次元構造を持ったこのナノ多孔質グラフェン電極を使用すればエネルギー利用効率を最大72%以上まで向上させることが出来る。

商業的に見ると,この電極材料は,少量のルテニウムを使用しているため金や白金などと比較すれば低いものの依然としてコストが割高となるが,1回の充電で電気自動車を500km以上走行させる可能性があり,リチウム空気電池の実用化への重要な一歩になるものといえる。

今後は,さらに高性能でコストの低い触媒の開発に伴って,大きな電気容量(4000~5000mAh/g)と低い過電圧が同時に実現できるリチウム空気電池の開発が進むことが期待されるとしている。研究グループは今後,この電極の実用化を目指して企業と模索していく予定。

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