NIMSら,水素吸蔵特性をもつAg-Rh合金ナノ粒子の電子構造の観測に成功

物質・材料研究機構(NIMS)と,京都大学,九州大学の研究グループは,バルクでは合金にならず,また各々単独では水素吸蔵金属でもない銀-ロジウム(Ag-Rh)合金ナノ粒子が,なぜパラジウム(Pd)のように水素吸蔵特性を示すかを調べるため,その電子構造を初めて観測することに成功した(ニュースリリース)。

元素の周期表中でPdの両隣りにあるRhとAgは,それぞれ水素を吸蔵する能力を持たない。バルクでは合金になり得ないAg-Rhは10数nmの大きさにして初めて合金化することができ,AgとRhが1:1のAg0.5Rh0.5合金ナノ粒子はPdと同様に水素を吸蔵する。しかし,なぜ,このような特性をAg0.5Rh0.5合金ナノ粒子がもつかは謎だった。その謎を解明するために,水素吸蔵特性と密接に関係するとされる電子構造を実験的,理論的に解明することは,材料開発の基礎として重要となる。

研究グループは,Ag-Rh合金ナノ粒子の価電子帯の電子構造を高輝度放射光の高分解能光電子分光測定,および,理論計算により調べた。直径10数nm粒子の内部の電子構造を実験室のエネルギーの低い(軟)X線を使った光電子分光測定で調べるのは難しいため,大型放射光施設(SPring-8)にあるNIMSビームラインでエネルギーの高い(硬)X線を用いた。また,電子系のエネルギーの計算スペクトルから,実験結果を精密に解釈した。

その結果,Ag-Rh合金ナノ粒子は,AgとRhが微視的に分離した混合物ではなく原子レベルで混成しており,その電子構造はPdの電子構造と極めて類似していることがわかった。Ag-Rh合金ナノ粒子に水素が吸蔵されるという事実は,この電子構造の類似性と関係していると研究グループでは考えている。

この成果から,Ag-Rh合金ナノ粒子は,その電子構造の観点からPdと同様に水素吸蔵のみならず有用な触媒となる可能性も示唆される。研究グループでは今後,その性質と物性などに関して共同研究を進めて行く一方,このAg-Rh合金ナノ粒子の他,様々な新機能性物質が産業に展開できるよう,電子構造や原子配列に関するデータを提供し,データを活用した設計型物質・材料研究(マテリアルズ・インフォマティクス)の基盤を形成していくとしている。

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