NIMSと慶大,生命活動や病気に広く関わる補酵素の蛍光イメージングに世界で初めて成功

物質・材料研究機構(NIMS)は,慶應義塾大学と共同で、従来困難だった生命活動や病気に広く関わる補酵素である,細胞内のニコチンアデニンジヌクレオチド誘導体(NAD(P)H) を可視化イメージングする方法を世界で初めて開発した。

蛍光イメージングしたHeLa 細胞

細胞内の物質に蛍光物質を結合させ,識別,可視化する蛍光イメージング法は,ある程度以上に複雑な分子の検出,測定ができず,また緑色蛍光タンパク質(GFP)をセンサとして用いる方法では,細胞内に特別な遺伝子を導入させる必要があるため,広く一般の細胞で用いることはできなかった。

細胞のさまざまな活動に関与し,多くの生命現象や疾患に普遍的に関わる重要な生体内物質に,ニコチンアデニンジヌクレオチド誘導体であるNADH とそのリン酸化体であるNADPH(ここではNAD(P)H と総称)という物質がある。NAD(P)Hを可視化できる蛍光イメージングは,生命科学の発展のためとても重要な技術として望まれていたが,NAD(P)Hは蛍光物質との反応性が低く,開発が困難だった。

研究グループは今回,NAD(P)Hと特異的に反応する蛍光プローブ を新規に開発すると共に,この反応性を促進することができる「人工プロモータ」を組み合わせるというアイデアにより,世界で初めてNAD(P)Hの蛍光イメージングに成功した。

 NAD(P)H の生体における普遍性を考えると,開発した蛍光プローブとプロモータを組み合わせる手法は,広い範囲の医学・生理学・生物学分野に波及すると期待できる。例えば,湿潤がんからのNADHの漏れ出しの検出によるがんの早期発見や治療支援,アルコール性肝障害においてNADHが過剰になるような肝機能の診断,アルツハイマー,うつ病,パーキンソン病などの脳,神経に関する疾患におけるNADHの欠乏の症状の解明などの応用が期待される。

詳しくはNIMSプレスリリースへ。