単色波長可変THz波光源で明らかにする半導体キャリア特性

3. 測定システム

図2 開発した半導体評価装置の構成図。THz波光源部,反射測定部,制御部からなる。図中M1,M2,M3は特殊コートしたミラー,P1,P2は軸外し放物面鏡,LFPはローパスフィルターを表す。
図2 開発した半導体評価装置の構成図。THz波光源部,反射測定部,制御部からなる。図中M1,M2,M3は特殊コートしたミラー,P1,P2は軸外し放物面鏡,LFPはローパスフィルターを表す。

我々が開発した測定システムの概要を図2に示す。測定システムは,主にTHz波光源部,反射イメージング測定部,制御部からなる。それぞれの機能と役割をここでは説明する。

THz波光源部は周波数可変2波長同時発振光パラメトリック発振器−共振器内にKTP結晶を使っていることからKTP-OPOと呼んでいる−とTHz波発生用の非線形光学結晶からなる18)。KTP-OPOの共振器内にある2つの非線形光学結晶(KTP)は,電気的に回転角の設定が可能な高速ガルバノスキャナにマウントされている。それぞれの結晶に対する励起光の入射角を外部から制御することで,出力される2つの赤外光の波長を独立に制御することができる。ガルバノスキャナを高速に制御することで,励起レーザーの繰り返し周波数100 Hzに同期した周波数の切り替えが可能である。

出力された赤外光はDASTと呼ばれる有機非線形光学結晶25)に入射され,差周波発生の過程によりTHz波が発生する。DAST結晶は,高い非線形性と光波領域およびTHz領域で近い屈折率を持つため,広帯域で位相整合条件を満たし,同軸でのTHz波の出力に適している。入射する赤外光の周波数の組み合わせにより1−40 THzの範囲から任意の周波数のTHz波を選んで出力することができる。その後,赤外光カットのためのローパスフィルターを通すことで,THz波のみが出力される。

次にTHz波は,反射イメージング系へと導かれる。ここでは,x方向に動く試料ステージとy方向に動く軸外し放物面鏡を組み合わせることで,落射型の反射イメージングが可能となる。それぞれ85 mm×85 mmの領域が掃引できる。反射したTHz波は焦電効果を用いた検出器(焦電検出器)によりその強度を測定する。4Kまで冷却するSiボロメータなどと比べると検出感度は犠牲になるが,常温で使用できるので設置場所を選ばない。

これらのTHz波の発振波長設定,ステージの位置調整,信号処理といった制御はPCを用いた制御部から行う。得られた反射率からキャリア密度への変換もPCにて行う。信号の測定には市販のDAQボードを用いてリアルタイムに信号をモニターしている。測定の手順としては1)プレビュー測定,2)スペクトル測定,3)マッピング測定が行える。1)プレビュー測定では,参照周波数(図1のRの領域)の波長の光を用いて,全体を測定し,試料の位置関係をつかむことができる。2)スペクトル測定ではプレビュー画像から好きな点を選び出し,その点における反射スペクトルを測定する。キャリア密度によって異なるスペクトルが得られる。このスペクトルをもとに,S1,S2,S3のどの領域の周波数が測定に適しているか(敏感な周波数帯)調べ,測定周波数を決定する。3)のマッピング測定では参照周波数と測定周波数を切り替えながら反射率の空間分布を調べるというのが基本的な流れである。

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