京大など、有機半導体薄膜の構造を分子レベルで正確に解明

著者: オプトロニクス 編集部

京都大学とオーストラリア グラーツ工科大学は、有機半導体が基板上でつくる厚さ数nmの超薄膜の構造を分子レベルで正確に解明することに成功した(ニュースリリース)。

(図)有機薄膜材料が段階的な多形転移を示すことを表した模式図

有機材料は同じ化合物でも複数の異なる結晶構造をとることができ、分子結晶における多形性として理解されている。結晶多形は材料の性質と密接に関係しており、多形の解明はさまざまな医薬品や製品開発につながる重要な基礎研究課題となる。

特に、センサーや薄型ディスプレー、トランジスタなどに使われる有機半導体は、分子が基板上に整然と並ぶ薄膜の状態で利用されることが多く、分子配列が性能を大きく左右する。しかし、有機半導体が最初の1層目を形成する際、どのような結晶構造になるかは実験的に調べることが難しく、従来は多層膜や単結晶の構造をもとに薄膜の性質が議論されてきた。

近年、一部の材料では薄膜特有の新しい結晶相(薄膜相)が存在する可能性が指摘されていたが、単分子層と多層膜の構造を明確に区別する手法が確立しておらず、薄膜成長の初期段階を理解するうえで大きな障壁となっていた。

今回の研究は、この未解明の問題に対して、分子の並び方を高精度で捉える赤外分光法とX線回折、さらに量子化学計算を組み合わせることで、薄膜の成長過程に潜む「隠れた結晶相」を直接明らかにすることを目的とした。

研究グループは、有機半導体として広く利用されるジナフトチエノチオフェン(DNTT)に着目した。この材料は高い安定性と良好な電気特性を持ち、デバイス研究の代表的なモデル物質。しかし、その薄膜構造と電気物性の相関は、単結晶構造を基にして理解されてきた。

今回の研究では、赤外分光法、X線回折、量子化学計算を組み合わせる独自の解析手法を確立した。赤外分光法により各結晶相に特有の吸収バンドを識別した。X線回折を用いることで、これらの結晶相の格子定数を実験的に決定した。実験的に得られたこれらの情報から、各結晶相の構造モデルを量子化学計算により決定した。

これらを統合解析することで、DNTT薄膜には膜厚に依存して3つの異なる結晶相が現れることを初めて明確に示した。

・単分子膜相(1層目):単結晶や多層膜とも異なる独自の分子配列
・薄膜相(数十nm):単分子膜相から転移した中間構造
・バルク相(数十nm以上):単結晶と同じ安定構造

研究グループは、今回の成果は、有機エレクトロニクス分野における薄膜形成の理解を大きく前進させ、センサーやトランジスタなど次世代デバイスの性能向上につながると期待されるとしている。

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