東邦大学の研究グループは、デュアルコム分光法を用いて気体の温度を高精度に推定する新しい手法「Integral Log Rotational-State Distribution Thermometry(ILRDT)」を開発した(ニュースリリース)。

ガス温度測定は、航空宇宙工学、燃焼診断、環境計測、化学プロセス管理など、多くの工学・産業領域において欠かせない基盤技術だが、従来の接触式温度計は、応答速度・耐環境性の面で限界があり、特に高温・高速フロー・有害ガス環境では利用が困難だった。そのため、レーザーを利用した非接触温度測定法が近年注目されている。
その中でも分子の吸収線強度に基づいて温度を推定する回転状態分布温度測定(RDT)は、校正不要の自己完結型測定手法として高い潜在力を持つ。しかし、RDTは分子ごとに異なる遷移モーメント、核スピン多重度、Herman-Wallis因子などの影響を強く受け、現実的にはアセチレンなど一部の分子にしか適用できないという制約があった。
研究グループは、この問題を解決するため、吸収線の積分吸光度を遷移指数mで割り、その対数を回転量子数に対し線形フィッティングする新しい解析法ILRDTを開発した。対数変換によって吸収強度に含まれる濃度・圧力・遷移モーメントなどの分子固有因子が定数項に集約され、温度依存成分のみが傾きとして抽出される。これにより、分子種に依存しない温度推定が可能となった。
実験では、デュアルコム分光システムを用いてアセチレンとシアン化水素の近赤外吸収スペクトルを同時取得した。各吸収線をVoigt関数で高精度にフィッティングし、積分吸光度を求めた後ILRDTを適用した。

その結果、アセチレンでは293.2±0.8K、シアン化水素では292.8±1.0Kが得られ、いずれも温度計Pt100の参照値293.1±0.1Kと良好に一致した。相対誤差は0.6%未満であり、複数の分子に対して同一手法で高精度温度推定が可能であることを実証した。
研究グループは、これらの結果から、ILRDTはデュアルコム分光法との組み合わせにおいて、将来の燃焼装置内部のリアルタイム温度監視、環境ガスの高精度モニタリング、産業プロセス制御など、幅広い社会基盤技術に貢献することが期待されるとしている。