東北大とシカゴ大、二次元材料・ヘテロ構造材料など量子ビットの安定性評価法を開発

著者: 望月 あゆ子

東北大学と米シカゴ大学は、材料内部の磁気的な揺らぎが量子状態を乱す仕組みに着目し、計算科学を使って量子状態の安定性を高速に予測する手法を開発した(ニュースリリース)。

これまで、量子状態の安定性に関する研究は三次元材料を中心に進められてきた。一方、原子層レベルで人工的に設計できる二次元材料や、それらを組み合わせたヘテロ接合構造では、同様の手法で安定性を評価することが難しく、統一的な理論は存在していなかった。近年、こうした二次元材料やヘテロ接合は、エレクトロニクスや量子情報処理への応用を目指して世界的に研究が活発化している。

研究チームは、材料中の原子核の磁気的な揺らぎがスピン量子ビットの安定性を支配することに着目し、この相互作用を解析するクラスター相関展開法(CCE)を自動化した。これを高スループット計算とデータ駆動モデルに組み合わせることで、材料ごとの量子状態の保持時間(T2)を網羅的に予測できる枠組みを確立した。まず二次元材料については、1173種類の候補の中からT2が1ミリ秒よりも大きい材料、190種類を同定した。

中でもWS2は、トランジスタや発光デバイス、光検出器などに用いられる代表的な二次元半導体であり、今回の解析でT2=35ミリ秒という極めて長い量子状態の安定性を示した。すでにスピン量子ビットとしての実験報告もあり、WS2はエレクトロニクスと量子情報をつなぐ共通基盤材料として新たな可能性を示した。この成果により、実在する二次元材料群の中で、量子状態の安定性を左右する要因と設計指針が初めて体系的に明らかになった。

(図)高T2の二次元材料の例と三次元母体材料のT2の比較

この新しい関係を代数的に整理することで、三次元材料に対して2021年に発見された「一般化スケーリング則」を二次元材料およびヘテロ接合系にまで拡張することに成功した。これにより、三次元材料・二次元材料・ヘテロ接合材料のすべての実在材料系に対して、量子状態の安定性を統一的に表現・予測できる理論的枠組みが完成した。この成果は、量子情報科学と最先端材料科学をつなぐ新たな橋渡しとなるとしている。

(図)T2の理論式による予測と大規模行列計算の比較

今回確立した理論と計算手法は、今後の量子技術開発に幅広い波及効果をもたらすという。まず、理論的には、三次元・ヘテロ接合・二次元を貫く統一的な「量子状態の安定性スケーリング則」を確立したことで、材料科学と量子情報科学を結ぶ新しい共通基盤が生まれた。これにより、理論計算だけでなく、実験グループや産業界が利用できる量子材料設計の標準指針として機能する。

実際の応用に向け、三次元材料で実験実証されつつあるこうした新たな色中心スピン量子ビット向け材料の実証に加えて、今回の枠組みに基づき、理論で予測した高安定材料を実際に合成し、スピン共鳴測定や光学計測によりT2の直接実証を進めるとしている。

また、今回確立した枠組みは、量子コンピューターの演算精度を高めるだけでなく、高感度な量子磁気センサーや量子通信デバイスの長寿命化など、量子技術全体の信頼性向上につながる。さらに、低ノイズ基板設計の指針を共有することで、半導体・材料メーカーとの共同開発を促す。

そして、既存製造技術と両立可能な量子デバイスプラットフォームの構築を目指し、将来的には、東北大学とシカゴ大学を中心とした国際共同研究のもと、理論・実験・産業を横断した「量子材料設計エコシステム」を形成し、量子情報社会の実現に向けた学際的研究をさらに推進していくとしている。

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