東京科学大学の研究グループは,機械学習を活用した分子設計手法により,高熱伝導性を有する液晶性ポリイミドの開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
近年,チップから発生する熱を効率よく放出することの重要性が高まっている。特に,チップとパッケージ基板を隔てる再配線層における絶縁材料の熱伝導性の低さは,デバイスの性能を制限する要因の一つとなっている。
代表的な絶縁材料であるポリイミドの熱伝導率は通常0.1–0.4Wm-1K-1と低い一方,液晶性高分子は比較的高い熱伝導性を示すことが知られている。しかし,液晶性ポリイミドの開発は,高度な専門知識と試行錯誤が不可欠であることから,これまで開発例は限られていた。
研究では,世界最大級の高分子材料データベースである「PoLyInfo」を活用し,高分子の液晶性を96%以上の精度で予測可能な機械学習モデルの構築に成功した。このモデルを用いて,実際の合成可能性を十分に考慮して仮想的に設計された約116,000種類のポリイミドの中から,液晶性を示す可能性が高いポリイミドを6種類選定し,合成することに成功した。
合成された6種類のポリイミドは,広角X線回折測定による高次構造解析の結果,いずれも液晶構造を形成していることが明らかになった。液晶性ポリイミドの分子構造を機械学習で予測し,実験的に検証したのは世界で初めてであり,材料科学分野における画期的な成果だとする。
次に,このポリイミドをデバイスに用いた場合の熱伝導性を評価した。具体的には,窒化シリコンナノ薄膜上に白金抵抗温度センサーアレイを配置したデバイス上に,合成したポリイミドのスピンコート膜を作製した。
このポリイミド膜について,真空中で近赤外レーザーの局所加熱によって発生させた温度波の伝搬挙動を解析し,温度波熱分析法により面内熱拡散率を測定した。その結果,作製したポリイミド膜の面内方向の熱伝導率は最大で1.26Wm-1K-1を超え,従来の一般的なポリイミドを大きく上回ることを確認した。
さらにこのスピンコート膜における分子鎖の配向状態を微小角入射広角X線回折測定によって評価したところ,分子鎖の面内配向度が高く,かつ分子骨格が剛直なポリイミドほど熱伝導率が高い傾向が観察された。これにより,分子鎖の配向性と剛直性の両方が熱伝導率向上の鍵であることが示された。
専門家の知見や試行錯誤によらない今回の高分子設計手法は,機械学習による設計効率の飛躍的な向上の可能性を示すことから,研究グループは,今後の高分子材料の高機能化研究に大きな変革をもたらすとしている。




