東大,レーザーの相分離液滴生成でDNAパターニング

著者: sugi

東京大学の研究グループは,レーザーを用いた相分離液滴生成において,従来の常識とは異なり,レーザー照射をやめたあとも長時間安定に存在する新奇の相分離現象を発見した。さらに,この現象を利用することで,DNAを高濃度に濃縮した相分離液滴をパターニングすることに成功した(ースリリース)。

液-液相分離現象は,分子を分離・濃縮する手法として注目されており,相分離液滴を自由に作り出すことができれば,さまざまな応用への発展が期待できる。

レーザーを用いた相分離液滴生成は,位置や時間を制御できるが,レーザー照射によって局所的に液滴が生成する条件を一時的に作り出しているため,従来の条件ではレーザー照射をやめると生成した液滴は消失する。

研究グループは,レーザー照射をやめたあとも液滴が消失せず,少なくとも数日以上,安定に存在する液滴生成条件を発見した。この現象を利用して,作成した相分離液滴の中にDNAを高濃度に濃縮し,その状態を長時間維持することに成功した。

生成した液滴は,レーザー照射をやめるとゆっくりと収縮するが,数時間後には収縮が止まる。また,生成液滴のDNA濃度を計測したところ,液滴の周りの濃度に比べ数千倍のDNA濃縮が実現していることがわかった。

この手法では,光ピンセットを搭載した顕微鏡を用いる。この顕微鏡は,試料の観察に用いるのと同じ対物レンズでレーザー光を集光させることができるため,あらかじめ試料を顕微鏡観察して目的の位置を決めてからレーザー照射を開始することで,希望する場所とタイミングで液滴を作成し,その中に DNAを濃縮できる。

さらに,生成した液滴の操作(消去,動かす,分ける,合体させる)が可能であることも見出した。また,この手法で作成する相分離液滴は,用いた原理上,生成液滴の正確な温度制御が可能であるという利点もある。このため,この手法は,反応温度が重要な生化学実験への応用が可能。また,DNAだけでなくRNAの濃縮も可能なほか,原理上,タンパク質や抗体なども濃縮することができる。

研究グループは,液滴が長時間安定に存在する条件について検討した結果,相分離して2相になる組成に限りなく近い条件で実験を行なうと液滴が消失しなくなることを実験的に明らかにした。これは,相分離してできた2つの相が安定に存在する条件に近い状況が局所的にでき,その結果,液滴が消失しにくい状態が実現すると推測した。

こうした状態の存在はこれまで知られておらず,今回発見した現象について研究グループは,相分離などの相転移現象を支配する物理をより深く理解するために,新たな問いを投げかけるものだとしている。

キーワード:

関連記事

  • 兵県大ら,光で働くDNA修復酵素のしくみを解明

    兵庫県立大学,大阪大学,筑波大学は,DNAの損傷を光で修復する酵素の反応過程を詳しく解析し,独自開発の分光計測技術を用いて,修復反応の途中で一時的に現れるオキセタン中間体を世界で初めて実験的に捉え,その存在を裏付けること…

    2025.09.03
  • 科学大,光で制御するDNA液滴分子ロボットを作製

    東京科学大学と東北大学は,照射した光の波長に応じて流動性を制御できる,DNAからなる液滴を構築し,「DNA液滴分子ロボット」への応用に成功した(ニュースリリース)。 生物の細胞では,液–液相分離で形成される液滴が,細胞の…

    2025.06.24
  • 京大,分光法によりDNA塩基に一瞬のねじれを発見

    京都大学の研究グループは,超高速光電子分光法と赤外分光法によって水溶液中の核酸塩基を調べ,紫外線を吸収したチミンやウラシルがC=C二重結合を強くねじった不安定な状態を形成することを発見した(ニュースリリース)。 遺伝情報…

    2025.05.14
  • 東大,光でゲノム変化を制御するゲノム合成技術開発

    東京大学の研究グループは,光で制御するトップダウン型ゲノム合成技術の開発に成功した(ニュースリリース)。 生命の設計図であるゲノムDNAを改変・合成し,医療や環境などの地球的課題を克服する新しい生物機能の開発が世界的に研…

    2025.04.16
  • 愛媛大ら,金ナノ粒子上のDNA構造と密度の影響解明

    愛媛大学と理化学研究所は,表面にDNAを修飾した金ナノ粒子を用いた標的DNA検出における,DNAの高次構造および密度の影響を明らかにした(ニュースリリース)。 直径が数~数十nmの金ナノ粒子の水溶液は,分散状態では赤色を…

    2025.03.25
  • 東北大ら,光に強く安定したタンパク質標識を開発

    東北大学と三重大学は,DNAを活用し,光に強く安定した新しいタンパク質標識「FTOB」を開発した(ニュースリリース)。 ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経疾患は,キネシンというタンパク質の異常が原因の一つとされている…

    2025.02.13
  • 公大,光照射だけでDNAの高感度・迅速分析に成功

    大阪公立大学の研究グループは,PCR法で標的DNAを増幅せずに,光照射だけで超高感度かつ迅速にDNAを分析する「ヘテロプローブ光濃縮法」を新たに開発した(ニュースリリース)。 研究グループでは,一本鎖DNAを修飾した金ナ…

    2025.01.24
  • 京大,同位体を量子ビットとして用いる手法を開発

    京都大学の研究グループは,量子ビットとして優れた性質を持つイッテルビウム原子の2種類の同位体をそれぞれ補助量子ビットおよびデータ量子ビットとして用いる手法を開発した(ニュースリリース)。 中性冷却原子を用いた量子コンピュ…

    2024.12.12

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア