岡山大学の研究グループは,テラヘルツ波ケミカル顕微鏡を活用し,DNAアプタマーと神経伝達物質(セロトニン,ドーパミン)の相互作用による表面電位の変化をリアルタイムかつ高感度で測定・可視化した(ニュースリリース)。
分子レベルおよび細胞レベルでの動的相互作用を探るための基本的な指標とされている表面電位を測定するため,テラヘルツ波ケミカル顕微鏡(TCM)は,ラベル不要で高感度な測定を可能にするとして注目されている。
TCMは,シリコン・オン・サファイア(SOS)基板とフェムト秒レーザーパルスを用いてテラヘルツ波を生成し,その波強度は表面電位の変化に応じて変調されるため,分子間相互作用を高精度に可視化できる。
さらに,構造生物学における計算モデリング技術が急速に発展し,2024年にノーベル賞を受賞した AlphaFoldを活用することで,表面電位の変化に関わる結合部位や相互作用の構造的基盤を明らかにし,TCMによる高感度な測定技術と組み合わせることで,さらなる理解と新たな応用が期待されている。
研究では,DNAアプタマーと神経伝達物質(セロトニンやドーパミン)との相互作用による表面電位の変化を,テラヘルツ波ケミカル顕微鏡を用いて高精度に測定した。この技術により,従来困難だった分子間相互作用の詳細を,ラベル不要かつ高感度に検出できる。TCMは,分子間相互作用が引き起こす表面電位の変化をテラヘルツ波振幅の変化として可視化する点で優れているという。
さらに,AlphaFoldを活用した計算モデリングを通じて,分子間で形成される水素結合や疎水性相互作用といった結合のメカニズムを解明した。これにより,表面電位の変化がどのようにして分子間相互作用に関連しているかを分子レベルで明らかにした。
これまでの研究では,TCMを用いてカルシウムイオンや非荷電分子(例:TNT爆薬)の検出に成功している。カルシウムイオンの検出では,イオン選択性膜を使用して表面電位の変化を可視化した。また,コルチゾールに関しては,DNAアプタマーを利用することで結合時の構造変化に伴う表面電位の微細な変化を捉えることができた。さらに,TNT爆薬の検出では,電子豊富なポリマー(PEI)をセンサー表面に修飾し,爆薬分子との電子移動による化学ポテンシャル変化をテラヘルツ波振幅として測定することに成功した。
今回の研究は,生体分子診断,特に非侵襲的で高感度な診断技術は,神経疾患の早期発見や個別化医療の実現に貢献する可能性がある。研究グループは,さまざまな疾患のバイオマーカーの応用にも広がる成果だとしている。