東京大学大の研究グループは,メダカを用いて,脳下垂体のホルモン産生細胞がUV光を受容し,黒色素胞刺激ホルモン(MSH)を放出して体表でのメラニン産生を促進し,UV光から身体を保護する新しい仕組みを解明した(ニュースリリース)。
脊椎動物は通常,光を主に眼で感知するが,非視覚性光受容体と呼ばれる光センサーが体内のさまざまな細胞に存在することが近年明らかになりつつある。この研究では,脳下垂体がUV光(UV-A)を直接受容してホルモン分泌を制御する独立した機能を持つことを初めて示し,非視覚性光受容体Opn5mを介した反応の仕組みを解明した。
研究のきっかけは,MSH産生細胞の放出動態の解析を目的としたCa2+イメージング実験において,MSH産生細胞が刺激を与えない青色励起光に反応して細胞内Ca2+濃度を上昇させる現象を偶然発見したこと。この観察から,MSH産生細胞が光を直接感知してホルモン放出を引き起こすのではないかと仮説を立て,詳細な解析を進めた。
その結果,MSH産生細胞が非視覚性光受容体Opn5mを発現し,特にUV光(365nm)に対して強い応答を示すことが明らかになった。また,質量分析による検証で,UV光が実際にMSHホルモンの放出を促進することが確認された。
さらに,Opn5mを欠損させたメダカでは,メラニン合成に関わるチロシナーゼ遺伝子の発現が低下し,体表でのメラニン蓄積が減少,光透過性が増加することが示された。
この一連の反応は,UV光の強度に応じて体色の黒さを調整するフィードバック機構を形成しており,脳下垂体が直接外部環境の光情報を感知して身体を保護する仕組みを明示するもの。すなわち,単純に体表の日焼けではなく,脳下垂体が受け取った光の強さに応じて,体色を調節している,という新しい仕組みを発見した。
この研究は,脳下垂体が視床下部の制御を受けずに独自に光を感知しホルモンを分泌する機能を持つことを示した初めての例。また,非視覚性光受容体が特定波長に感受性を持つ意義を示した希少な事例でもあるという。
研究グループはこの成果について,Ca2+イメージング技術を活用した光受容解析の可能性を広げ,未知の光利用経路や光制御によるホルモン分泌技術への応用に道を開くものだとしている。