国立天文台(NAOJ),スペイン・カナリア天体物理研究所,千葉工業大学らは,北半球にある2つの大型光学望遠鏡を用いて,ブラックホール同士の合体による重力波事象に対してこれまでにない深さで追観測し,その電磁波放射の可能性に制限を与えた(ニュースリリース)。
重力波望遠鏡では,ブラックホール同士の合体からの重力波も検出される。特に2つのブラックホール(ブラックホール連星)が合体して起きる重力波は,検出される重力波の9割を占める。
ブラックホールはその重力により光(電磁波)も逃げ出せないため,ブラックホール連星合体が電磁波を放射するとは考えられてこなかった。しかしながら,ブラックホール連星合体による重力波事象の1つ(GW190521)から電磁波対応天体の候補を検出したとの報告があり,電磁波を放射する複数のメカニズムが理論的に提案された。
2020年,米の重力波望遠鏡LIGOと欧州の重力波望遠鏡Virgoはブラックホール連星合体からの重力波事象(GW200224_222234)を検出した。一般に、重力波望遠鏡の「視力」は悪く(人間の視力に変換すると約0.0008),その到来方向は典型的には「満月2000個分(500平方度)の範囲のどこかから来た」としか言えない。
しかし,GW200224はとりわけ重力波放射が強く,その到来方向が約50平方度に限定されていた。そこで研究グループは,すばる望遠鏡とカナリア大望遠鏡を用いた追観測を実行した。
重力波検出の12時間後に,広い天域で暗い天体を探査することが得意なすばる望遠鏡(主鏡口径8.2m)の超広視野主焦点カメラ,HSCを用いた撮像観測を行ない,急激な光度変化を起こした天体(突発天体)をその方向に探査した。
この観測は到来方向の91%をカバーし,ブラックホール連星合体による重力波事象に対してその到来方向の大部分をカバーする観測としては,これまでで最も深い観測となった。
見つけた突発天体の光度変動を精査し,カナリア大望遠鏡の分光器OSIRISで突発天体が属する銀河の分光観測を行なうことで,その銀河までの距離を測定した。そして,GW200224に対応する可能性のある19個の天体を最終的に同定した。
この中でGW200224との関連が強く示唆される天体は存在せず,電磁波放射が報告されたGW190521と同程度の強度の電磁波放射は付随していなかったと結論づけた。これは,ブラックホール連星合体からの電磁波放射現象の多様性を示している。
今後,重力波望遠鏡LIGO(2台)、Virgoに日本のKAGRAを加えた計4台での観測が再開される。多様な重力波天体の素性を明らかにするために,研究グループはすばる望遠鏡とカナリア大望遠鏡を用いた追観測を行なうとしている。