バッテリーフリーが当たり前の時代へ ―光無線給電の有効性

著者: 小林 鉄太郎

電力供給ラインを無線化するとバッテリー、給電ケーブル、コンセントが不要になる、既成概念を覆し新しい世界を作る可能性を秘めた光無線給電が注目を集めている。その普及と実現化に向けて研究している宮本氏に話を聞いた。

東京科学大学 教授 宮本 智之氏

-光無線給電とは何なのでしょうか

光無線給電は、遠くまで届く光の特性を活かし、レーザーやLED光源から発する光を太陽電池(PV)で受光して電力変換する方式です。

給電距離は数cm から数kmで、取得電力はmWからkWまで可能です。給電効率は現状10~20%ですが将来的には40~50%まで向上の余地があり、大電力送電には加工用レーザーなどの高出力光源を使用することがあります。

この方式は今すぐ実験可能で、市販の10kW光源を使い、100m先のPVに当てればシステム設計次第で数kWの電力を取得できると考えています。ただその時、光線の安全対策を行なうなど諸準備が必要です。

光無線給電の仕組み-光源から受電デバイス

光無線給電は屋内外、宇宙、水中など多岐にわたって活用できます。消費電力がmWの小型センサー端末、100~200Wのドローン飛行支援、1kW~数kWの電気自動車(EV)の走行中給電などです。宇宙なら真空中の光の低減衰特性を活かして月面ローバーを距離10 km程度まで遠隔給電することも可能です。

家電は給電ケーブルが無くなるのでレイアウトの自由度が上がります。壁にコンセントを設置する必要もなくなります。スマートフォンやノートパソコン、ドローンやEVなどの移動体からはバッテリーが無くなるので更なる小型化・軽量化・製造コストの低下が見込めます。日常生活の中で充電のためのコンセント探しやモバイルバッテリーの携帯も不要になります。

スマートフォンの次の大きなプラットフォームとして注目されているARグラスでは、搭載バッテリーによる駆動時間、重量、発熱、これらがバッテリーレスになることで一気に解決します。 Wi-Fiが通信技術を変えたように、給電も無線化することで既存機器の使い勝手が一変します。

多岐にわたる光無線給電のアプリケーション

-自動車、ドローンなど移動体への追尾給電は未来社会を変えるのでは

飛行中・走行中の常時給電が実現すれば大容量バッテリーに依存しない運用設計が可能になります。例えばドローン、倉庫のAGV(無人搬送車)/AMR(自律走行搬送ロボット)、EV、自動運転タクシーやバスなど充電待ちによる稼働損失を大幅に減らせます。

常時無線給電により飛び続けるドローン

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、コイルを埋め込んだ道路における、無線給電式EVバスが運行していました。遠方まで対応する技術が更に発展して、常時無線給電で飛び続けるドローンの実現など、インフラ整備は必要ですが、運用の常識が変わります。

-宇宙用途ではまた別の可能性が広がりますね

宇宙太陽光発電は議論されています。宇宙は天候や昼夜などの影響を受けないので地上の10倍の発電効率と言われています。宇宙で蓄えた電力を地上へ送る方法はマイクロ波かレーザーが候補とされています。両者一長一短あり、マイクロ波は雲を貫通するがビームが広がりやすく巨大なアンテナが必要です。レーザーは指向性が高く、既存のメガソーラー級受電面でも受けやすいのですが、ただし雲の影響が課題で、ミラーでの迂回や複数受電拠点の活用など運用面での工夫が必要です。

-効率化の観点から光源1つで複数デバイスに同時給電する研究もされています

遮蔽物を回避して複数のデバイスに安定した給電を行なうため、複数の光源を配置する方法があります。ただ光源1に対して受電デバイス1では効率が悪いので、例えば光源2:受電デバイス10など、一つの光源で複数ターゲットを順次・同時にカバーする方式を研究しています。照明のように光源を複数配置し、遮蔽物があってもいずれかの光源で給電できる冗長構成にする発想です。10~20台のセンサーを1台の光源で面倒を見る、といったスケールを目指しています。

冗長構成で途切れない光無線給電システム

-光無線給電研究分野からレーザー・光技術に求めることは

第一にコストダウンです。光無線給電インフラ構築が進むと大規模な数のレーザーが必要になるので、その社会実装を進めて販売台数を増やし、規模効果で販売価格を一桁、二桁下げることが重要だと思います。

第二に効率の向上です。光源側、特に光無線給電の理論特性に優れる青色レーザーの更なる効率改善に加え、受光素子の最適化も要になります。

第三にレーザー使用による人体への安全性の確保です。遮蔽、アイセーフレーザー、検知停止など、人がいる環境での実装を支える仕組みづくりが鍵になります。ただし倉庫や宇宙など人が居ない場所で使用する場面ではそのコストが抑えられると思います。

-安全性も考慮した波長選択は

使用する波長候補は幾つかありますが、近赤外は発電素子が安価で効率も高く、研究デモや一部の実用に適しています。1.5 μm帯(アイセーフ)は目に安全な領域で、地上導入のハードルを下げやすい一方、現状は光源・受光側の効率が低めです。

より短波長(青~緑)になると、指向性が強く同じ光学系で到達距離を伸ばせます。さらに水中では青~緑が減衰しにくく有望です。課題は受光素子の最適化と高効率光源の更なる改善です。

また、用途の広さから波長・距離・出力ごとに複数の方式が並立すると見ています。

AIやカメラなど周辺技術の低価格化が進んでいる

-光無線給電分野の企業動向は

日本では近年、本分野のベンチャー企業が立ち上がって活動を始めています。海外でもすでに数社が光無線給電に取り組んでいますが、海外の場合、大学があまり研究していない国もあり、ベンチャー企業がより独自性を出す形で成立しています。

テスト的に取り組む大手企業もありますが、市場性や安全性がまだ見えにくい分野なので大規模な取り組みはまだ難しいかもしれません。ただし、もし一度大きな資金が動けば一気に加速する可能性があります。事業化の判断が難しい大手企業よりもベンチャー企業の方が素早く事業展開できるのでその点は強みですね。

光無線給電のベンチャー企業数はまだ少ないのですが、5年後には10社以上のスタートアップがあるかもしれません。社会的にも産業的にも、そうした動きが広がっていくことを期待しています。

-周辺技術の進歩も目覚ましいとのことですが

基本技術は既に揃っています。ただ高出力レーザーを使用するので安全面をどのようにカバーするか、また社会がどう受け入れるかが課題です。

現在は周辺技術が格段に進歩しました。まずカメラがとても安く高性能になり、人工知能、特に画像認識技術が普及しました。10年以上前からAIが実用化され、学生でも半年もあれば基礎的な仕組みを作れてしまうほどです。

コンピュータの性能向上もあり、光無線給電は「レーザーと受電面があればできる」という状況になりました。20~30年前でも要素技術的には可能でしたが、当時は周辺技術が足りず、今はそれが揃っているのが強みです。

さらにレーザー自体も、ここ10年で大幅に安くなりました。かつては数千万円した高出力レーザーが今では数百万円、さらに個人向けのレーザーカッター用なら数万円で手に入ります。中国製の低価格品が出てきた影響も大きいです。

このように周辺技術の発展により光無線給電は実現に向けて一気に加速しています。

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