情報通信研究機構(NICT)は,8Wを超えるワット級の深紫外LEDハンディ照射機の開発に成功した(ニュースリリース)。
深紫外LEDを用いたハンディ照射機は,光出力が小さなものしかなく(数十mW程度),広範囲の殺菌などに向けた高出力用途の深紫外光源としては,水銀ランプが主に用いられてきた。しかし,水銀ランプは水銀を含むほか,水銀ランプやエキシマランプ等のガス放電式ランプは,ガスを封入するガラス管が割れやすく,光源のサイズや駆動電源が大掛かりとなるといった問題がある。
今回研究グループは,最も殺菌性能の高い波長265nm帯の発光ピークを示す高強度深紫外LEDチップ技術を用いて,LEDチップを高放熱実装基板に高密度マルチチップ実装することにより,光出力8Wを超えるワット級高出力動作の深紫外LEDハンディ照射機を世界に先駆けて開発した。
研究グループはこれまで,高出力な深紫外LEDの研究開発とその実用化に向けた取組を積極的に推進してきており,内部光吸収や光出力飽和現象(効率ドループ)の抑制を可能とするナノ光構造技術を基盤とした深紫外LEDの研究により,深紫外LEDの単チップ当たりの世界最高出力の記録を何度も大幅に更新(光出力500mW超)してきた。
今回,高強度深紫外LED技術により,実装基板や駆動電源,バッテリーも含めて全て小型化,筺体内に収納することが可能となり,どこにでも持ち運べるワット級の小型ハンディ機を実現した。
この深紫外LEDハンディ照射機の出力を5Wに設定し,真上から豚コロナウイルス(PEDV)に対する照射効果を評価したところ,直径30cmの範囲内のウイルスへの深紫外光照射の場合,0.97秒の照射で99.9%,3秒の照射で99.99%のウイルスが不活性化された。また,より広い直径100cmの範囲内のウイルスへの深紫外光照射の場合,12.86秒の照射で99.9%,27.17秒の照射で99.99%のウイルスが不活性化されたという。
研究グループは,今回開発したワット級の深紫外LED小型ハンディ照射機により,病室のベッドや医療器具,学校や介護施設,オフィスのデスクやドアノブ,トイレ,飲食店のテーブルやキッチン,鉄道車両や航空機内の座席や手すりなど,人が出入りし接触するあらゆる表面・空間を広い面積にわたって簡便・迅速に殺菌することが可能であり,幅広い用途における今後の活用,応用展開が期待されるとしている。