物質・材料研究機構(NIMS)と北海道大学からなる研究チームは,燃料電池の電極で起こる酸素から水を作り出す反応をモデルに,もともと特定条件では触媒として不活性な金が他の物質と接合することで表面がナノ構造化し,不活性な条件下でも触媒として活性化することを見出した(ニュースリリース)。
酸素から水を合成する,あるいは水から水素を生成する反応は,燃料電池などエネルギー変換・貯蔵デバイスに利用されている。たとえば燃料電池の電極の一方では,酸素に水素イオンと電子が反応して水に変換されるが,その反応では,白金や一部の酸化物が触媒として有効であることが分かっている。
しかし,酸素,水素,電子というシンプルな組み合わせにも関わらず,反応経路が複雑なため,電極上での反応過程や触媒の働きについて,その詳細はいまだに解明されていない。そこで研究では,もともと触媒として不活性な物質が,別の物質と接合することで活性化する系に着目し,その物質の化学的・構造的な変化と触媒活性との関係を調べることで,電極上の反応過程の解析を試みた。
今回,グラファイト状窒化炭素と,それと接合させる物質として金を用いた。グラファイト状窒化炭素は,窒素と炭素原子で構成される幾何構造と化学構造が精密に制御された物質。グラファイト状窒化炭素の構造を詳しく調べたところ,単純に平坦な層が重なっているのではなく,波打った層状物質であることが分かった。
これを原子数層分に剥離して金と接合し,触媒として利用したところ,酸素から水を高効率に合成できるようになった。解析の結果,波打った構造を持つグラファイト状窒化炭素と金が接合することで,金の表面構造がナノスケールで変化し,その界面に反応の鍵となる中間体を安定に吸着できる部位が形成されたため,高い触媒活性を持つことが示唆された。
この成果は,未解明な部分が多い燃料電池の電極上の反応過程解明に向けた一歩であり,高効率な触媒の開発につながると期待されるもの。今後,様々な物質との組み合わせにおいて,界面のナノ構造の変化と触媒活性との関係を検討し,電極上での反応過程の理解を目指すとしている。