産総研ら,電気を通す透明ラップフィルムを開発

産業技術総合研究所(産総研)は,トクセン工業と共同で,電気を通す透明ラップフィルムを開発した(ニュースリリース)。

開発した透明で高伸縮性の導電性ラップフィルムは,二枚の柔軟なフィルムの間に極細金属ワイヤが波状になるようにはさみこんだ構造となっている。この構造を実現するプロセスを考案したことで,今回の導電性ラップフィルムの開発に至った。

また,柔軟なフィルム間に極細金属ワイヤを波状に形成する際,極細金属ワイヤのヤング率(弾性係数)が,形成される波状ワイヤの形状に強く影響することが分った。

高弾性のワイヤとしては,線径9μmのピアノ線を,また低弾性のワイヤとしては線径30μmの銅線を用いた。高弾性ワイヤでは波の頭頂部の曲率半径が比較的大きいが,低弾性ワイヤでは曲率半径が小さくなってしまい,繰り返し伸縮すると頭頂部で金属疲労が起こり断線してしまう。

この結果から,極細金属ワイヤとして弾性の高いピアノ線を用いたため,波状ワイヤの頭頂部の曲率半径を大きくでき,伸縮する際にも金属疲労が起こらず,断線に強い高伸縮性の導電性ラップフィルムが作製できた。

一般に,視力1.0の人が30cmの観察距離で認識できる物体の最小サイズが50μm~100μmと言われている。今回用いた線径9μmのピアノ線を目で認識することは難しく,開発した導電性ラップフィルムには十分な透明性が確保されている。

また,波状の極細金属ワイヤによりフィルムが導電性を示すが,ワイヤを波状に配線しているので,伸縮時にもワイヤ自体の長さは変らず,原理的に電気抵抗(電気抵抗は配線の長さに比例する)は変化しない。

そのため,LED用の配線としてこの波状ワイヤを用いた場合,フィルムを伸縮してもLEDの発光輝度は揺らがない。さらに,今回用いた極細金属ワイヤはピアノ線であるため,非常に強靭であり,導電性ラップフィルムを折り畳んで,ハンマーで叩打しても断線しなかったという。

研究グループは今後,製造プロセスの効率化により,今回開発した導電性透明ラップフィルムの量産体制を確立するとともに,このフィルムを用いた曲面タッチパネルやウェアラブルセンサーなど,様々な応用をめざすとしている。

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