農工大,電気刺激による生体分子の動きを直接観察できるAFMを開発

東京農工大学,金沢大学,東京大学の研究グループは,電気化学測定を行ないながら電極表面の生体分子の動的挙動も同時に観察できる,電気化学高速AFM装置を開発した(ニュースリリース)。この装置により,生体のエネルギー生産に関与するタンパク質であるシトクロムcが,電極表面に吸着していく一連の過程を,AFM画像及び電気化学応答とし初めて同時観察できた。

従来の解析手法ではタンパク質の速い動的挙動をAFMで観察することは困難だったが,金沢大学は生体分子一分子の画像をリアルタイムで撮影できる世界初の高速原子間顕微鏡(HS-AFM)装置を開発した。一方で東京農工大学と東京大学は共同で,タンパク質を電極上に固定したセンサや電池の開発を行なってきた。

バイオエレクトロニクス研究において,電極上のタンパク質の吸着状態や向き,吸着量,電場をかけた際の生体分子の動的挙動を知ることは,より高性能なデバイスを作製するために非常に重要。しかしながら,これまでこれらの情報を直接観察するためのツールは無かった。そこで,3グループは共同で,HS-AFM の構成を基本とし,電気化学測定装置を組み合わせた電気化学HS-AFM 装置の開発に取り組んだ。

電気化学HS-AFMは,HS-AFM の構成を基本に試料ステージを作用電極とし,対極,参照極を設けた三電極系で構成し,電位を正確に制御できるようにした。そこで,タンパク質の電子移動の研究で盛んに行なわれてきたシトクロムcを対象とし,修飾したSAM(自己組織化単分子層)をコーティングした金電極へのシトクロムc吸着挙動とその電気化学応答について検討した。

その結果,AFM像から,シトクロムc分子が電極表面に吸着していく様子がリアルタイムで観察され,それと同調してシトクロムcの酸化還元に由来するピーク電流値の増加がみられた。470秒付近のAFM像では,急激にシトクロムc,が吸着して層となる様子が観察された。500秒以後はAFM像に大きな変化が見られなくなり,同時に電流値も定常となることから,電極表面にシトクロムcが単層に吸着し,それ以上の吸着は起こらないことがわかった。

この一連のAFM 像から吸着量を解析した結果,シトクロムcの吸着過程において正の協同性(分子が一旦吸着すると次の分子はより吸着し易くなること)が働いていることが示唆された。この現象は,電気化学HS-AFM を用いることで初めて見出されたもの。

電位をかけたときに電極上の生体高分子がどのように動くのかを直接観測でき,また,酸化還元反応が起こった後に誘起されるタンパク質ドメイン間の動きやタンパク質―タンパク質間の動きを観測できる。分子間の電子移動と構造変化に関する詳細な情報が得られ,分子間の電子やシグナルの伝達に関する研究の新しい展開が期待できる。これらの情報を集積することが,より高感度なバイオセンサや,より高出力のバイオ燃料電池の開発といったバイオエレクトロニクス研究につながる。

また,電位をかけた後で膨張や収縮するなど構造が変化する材料について,どのようにどのくらいのスピードで動くのかをリアルタイムに観測するのにも用いることが出来る。新規材料の評価にも用いることができ,研究グループでは材料開発のための指針を与えられるものと期待する。

関連記事「8K 内視鏡・顕微鏡の臨床応用に成功─ MIC が成果を発表」「愛媛大,二光子顕微鏡を用いた変形性関節症の早期診断法を確立」「東北大,新開発の顕微鏡により電池材料表面の充放電特性の画像化に成功