東大ら,ガラスの持つ大きなかご状構造内への電子の“溶け出し”を可視化

高輝度光科学研究センター(JASRI),タンペレ工科大学,東京大学,山形大学,大阪府立大学,Materials Development Inc.,アルゴンヌ国立研究所からなる国際共同研究チームは,大型放射光施設SPring-8を用いた実験やスーパーコンピューターを用いたシミュレーションにより,酸化物ガラスに存在する大きなかご状構造が「ガラス形成のしやすさ」を決めることを明らかにした。加えて,このガラスから酸素の一部を引き抜くことで,かご状構造内に電子が“溶け出し”ガラス構造が安定化することも突き止めた。

ガラスの物性を理解するためには,ガラスになりやすい組成,なりにくい組成という2つの原料でガラスを作製し,その構造を比較することが重要だが,ガラスの原子配列は結晶のような規則性を持っておらず,その構造を理解することは難しいとされてきた。

そこで研究チームは,小さな組成変化でガラス化しなくなるアルミン酸カルシウムの成分である,酸化アルミニウムと酸化カルシウムの組成を変え,ガラスになりやすい組成とガラスになりにくい組成でガラスを作製し,原子のつながり方を解析した。

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その結果,ガラスになりやすい組成では,大きなかご状構造が成長しているのに対して,ガラスになりにくい組成では,そのようなかご状構造が存在しないことを世界で初めて発見した。また,このガラス化しやすい組成のガラスでは,酸素を引き抜くことで電子が溶け出すことが従来から知られていたが,今回,かご状構造の中に電子が溶け出すことがガラス構造をエネルギー的に安定にすることを明らかにした。

今回の発見は,ガラスの構造とガラス化のしやすさとの関係を結びつけたもので,この研究分野での大きな謎のひとつを解決するもの。さらに,この研究で得られたガラス構造に関する電子レベルでの理解は,電気を流すガラスのような革新的材料の開発への道筋を示す重要な知見となる。

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