月刊OPTRONICS 特集序文公開

レーザー素地調整の展望—工法と普及—

著者:光産業創成大学院大学/㈱トヨコー 藤田和久

1. レーザー素地調整とは

1.1 インフラのライフサイクルコスト低減と課題

国内の建設投資は1992 年の84 兆円をピークに,2022年には67兆円と20%減である。建設業就業者数も同様にこの30 年で22%減の479 万人(2022 年)であり,75歳以上の団塊の世代にはもう頼れない。更新の困難性や少子高齢化が前提となり,国土交通白書は2013年を「社会資本メンテナンス元年」とし,事後保全から予防保全,ライフサイクルコストを低減する維持管理手法が重要となってきている。

しかしながら,その維持管理手法にも問題が山積している。鉄橋・鉄塔であれば錆の除去を伴う塗り替え工事において1 年後に再発錆が認められることがあるなど,よい管理技術がなかった。その原因は残留塩分である。

1.2 レーザークリーニング

非接触のドライ工程であるレーザークリーニングは,本誌でも2018 年に紹介したとおり,除錆や塗膜の除去が可能である。

吸湿性のある塩分が残っていると,例えそれをカバーする新しい塗膜があったとしても,大気中の水分が塗装膜を経由して塩に捕獲され,電気化学的な腐食作用が可能となるイオン・電子の流動性が確保されて腐食が進む。レーザークリーニングは,瞬間的だが表面を高温状態に加熱でき,塩分の蒸発除去が可能な手法である。このレーザークリーニングは,従来のディスクグラインダーといった電動工具や,高速エアーにのせた研削材(砂,鉄粉など)を吹き付けるブラスト工法による物理的・機械的除去,及び薬品を用いた塗膜の化学的除去といった工法とは異なる,レーザープロセッシングならではの非接触熱加工による除去である。

図1 は鉄橋などの鋼構造物における塗り替え工事の一般的な流れを示している。「素地調整」と呼ばれる工程は,必要に応じて塩分を洗い流す「水洗い」,「塗膜除去」,及び錆などを除去して表面粗さを与える「下地ごしらえ」の3 つの要素で構成される。レーザークリーニングは表面の異物除去であるから,表面粗さの付与機能もあれば素地調整の新たな手法となりうる。

1.3 クリーニングから「レーザー素地調整」へ

素地調整は,その後の「塗装」工程によって表面に新たに形成された保護膜が,長年にわたって再発錆を抑制し,腐食による母材の減肉が構造材としての機能を低下させないようにするためのものである。よって,耐久性が証明されてこそ,素地調整として認められる。

そのためのレーザー照射処理システムが,レーザークリーニングから一歩踏み込んだ技術として開発されてきた。要求される機能は,①屋外使用でシステム搭載車から100 m程度ケーブルで伸ばせること,②多様な鋼構造物の形状に作業者が手作業で合わせることができる軽量・堅牢な手持ちレーザーヘッドによる安全な施工,③施工速度確保,そして④素地調整として認められること,である。これらへの答えが図2である。

開発されたレーザー照射処理システムはCoolLaser(クーレーザー)と呼ばれ,最新機で5.4 kW出力の赤外ファイバーレーザーを用い,尖頭値を持たないCW故に長尺のファイバーケーブル(図2①中央の黄色ケーブル)による伝送が可能で,100 mを確保している。安全対策をした作業員が,堅牢で単純な回転プリズムスキャン機能のある手持ちのレーザーヘッドを持ち,自在に照射できる(②)。パルスレーザーによるレーザークリーニングが最大でもkW程度の平均出力に対し,6 kW級を用いることで除錆の③施工速度を確保し,かつ照射条件を最適化して④素地調整品質を達成している。

粉塵環境下の工事現場で使う手持ちレーザーヘッドの開発と素地調整品質の達成には多くの工夫が盛り込まれ,光学技術者向けにわかりやすく解説されている参考文献3 のHPを参照されたい。知的財産のポートフォリオも不断の構築が続き,事業リスクを低減している。

本稿では,こういった技術・事業開発に伴い,近年急速に進んだレーザーを用いた素地調整後の塗膜耐久性に関する知見をまず概観し(2 章),土木分野における工法としての確立に必要な標準化や人材育成・安全にかかる活動を紹介する(3章)。最新の動きや今後の展望を最後に述べ,日本発のレーザー素地調整の可能性を探る。

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