月刊OPTRONICS 特集序文公開

従来の戦闘を一変させるゲーム・チェンジャー 「高出力」レーザーの防衛装備への応用

著者:防衛装備庁 松尾涼人,鈴木祐仁

1.防衛装備としての高出力レーザー

1.1 高出力レーザーを防衛装備に適用する利点

漫画やアニメにおいて,巨大なロボットが「レーザー光線」を放ち,敵を倒しているシーンをたまに見かけるが,それが現実のものとなりうる日も近いかもしれない。

近年,諸外国でレーザー兵器が開発されているというニュースが増えてきたように思われるが,アメリカやイギリス,さらにはイスラエルといった様々な国で現在レーザー兵器の開発が行われている。日本における防衛装備品の開発を担当する防衛装備庁でも,現在高出力レーザーに関する研究を実施中である。防衛装備庁では,前身の技術研究本部の時代から,長きにわたり高出力レーザーに関する研究を行っているが,近年特に注目度が増しているように感じられる。それは近年新たな脅威となるドローン兵器が出現したからであるが,詳細は後述することとする。

本誌の読者であれば,そもそも「レーザー」とは何かということはご存じであろうため,本説明は割愛する。わざわざ「高出力」と付けている通り,プレゼンテーション等で用いるレーザーポインターの出力よりはるかに強力なレーザーの光エネルギーを用いて,目標の破壊等を実現しようとするのが,防衛装備の高出力レーザーシステムである。高出力レーザーシステムが実現すれば,従来の装備品と比べ様々な利点がある。

ここからは,代表的な利点を紹介する。まず,高出力レーザーシステムは,実験室のレーザーを想像してもらえばわかる通り,冷却が間に合いさえすれば電源が供給される限り撃ち続けられるため,弾切れが無い装備品であるということが挙げられる。現状の戦い方では,基本的にミサイルや火砲といった火薬入りの弾を使用することがメジャーである。そのため,弾が切れてしまえば,代わりの弾に交換する必要があり,さらには,交換できる数も有限である。一方,レーザーが装備品となれば,弾切れが無いため,弾の交換のための後方支援を不要とすることができる可能性を秘めており,実現すれば非常に有用なものとなるであろう。

次に,レーザーシステムは電気しか必要としないため,迎撃に係る費用は理想的には電気代のみであり,ミサイル等に比べ格段に低コストであるということが利点として挙げられる。もちろん長期的な視点では,レーザーシステムに使用しているミラー等の交換費用等の電気代以外のコストもかかりうる。しかし,そういったメンテナンス費用を加味しても,ミサイル1発のコストに比べれば,レーザーシステムのコストはかなり安く,レーザーシステムはコストパフォーマンスに優れた装備品と言えよう。

更に,当然のことながら,レーザーは光であるため,目標に命中する時の弾速は光速である。したがって,火砲に比べて格段に速い速度で目標を狙うことが可能である。すなわち,レーザーシステムは,火砲で必要となる弾道予測が不要であり,現在の目標の位置を把握さえできれば,瞬時に目標を狙うことができるシステムである。

もちろん,霧の時など,天候によっては威力が弱まってしまう可能性があるなど,欠点もあるのも事実である。しかし,レーザーシステムには火砲やミサイルといった従来の装備品に無い利点が多数あり,従来の戦闘様相を一変させうるゲーム・チェンジャーとして期待されている装備である。

特に,最近は新たな脅威として登場したドローン兵器に対する対抗策として,高出力レーザーシステムの有用性が注目されている。近頃のウクライナ侵略では,今までに無かったドローンによる攻撃が活発に行われるようになった。ドローンは航空機に比べると圧倒的に低コストであるため,爆薬を積んだ多数のドローンで飽和攻撃を仕掛けるなど,従来にはなかった戦い方が行われるようになった。ドローンの厄介なところは,1機当たりの価格が安いため,攻撃側は次々に投入できる一方,防御側としては現状で確立されている対処手段があまりないところである。例えば防御手段が無いためミサイルで対処せざるを得ないと考えた場合も,ドローン1機の価格に比べミサイル1発当たりの価格がはるかに高いため,コストパフォーマンス的に現実的でない。そこで,そういったコストパフォーマンス的な観点から,高出力レーザーがドローン対処用の手段として注目されている。先述の通り,高出力レーザーは1発当たりのコストが安く,かつ電源が持つ限りは連射可能であるため,低コストであるドローンの飽和攻撃が来たとしても,コストパフォーマンス良く対処できる可能性が高い。以上の事情から,高出力レーザーシステムは近年更に注目を浴びるようになった。

1.2 高出力レーザーシステムの使われ方

続いては,高出力レーザーシステムがどのように使われうるかについて紹介する。大きく分けると高出力レーザーに期待されるのは,目標の熱的破壊と光学センサ妨害の2つである。

まず,目標の熱的破壊については,レーザー光を目標に集光することで,照射対象に入熱し,それにより目標を破壊に至らせるというものである。イメージとしては,小学校の理科の時間に,太陽の光を虫眼鏡で集め,それを黒い紙に当てて紙を焦がし小さな穴を開けるという実験を経験した人もいるかもしれないが,その実験に近い。太陽光を虫眼鏡で集光するよりもより強力なパワー密度となったレーザー光を目標に照射することで,目標に穴を開けるほどの破壊を狙う。例えば,ドローンのようなプラスチックや樹脂等の比較的融点の低い目標であれば,回転翼機のアームを狙い,アームを折ることでバランスを崩させ墜落させるようなことが可能である。あるいは,固定翼機であればプロペラを狙いプロペラを落とすことで飛行できなくするといったことが可能である。更に,レーザーシステムは,中に炸薬の入った砲弾等に対しても効果を発揮する可能性がある。レーザーを照射すると外殻を通して中の炸薬が温められ,一定時間後温度が発火点に達し爆発することにより砲弾を破壊できる可能性がある。このように,ドローンの迎撃だけでなく,砲弾等にも対処できる可能性があるのも,レーザーシステムの強みの一つである。

次に,光学センサ妨害について説明する。カメラに必要以上の光を入れるといわゆる「サチる」というように,カメラの画面が飽和し,入れた光の強さによっては,カメラの受光部にダメージを与えてしまう可能性があるということはご存じであろう。レーザーも光であるため,通常のカメラの使い方では絶対に行わないが,敢えて高出力のレーザー光を光学センサに当てることで,光学センサを飽和もしくは破壊できる可能性がある。先述したドローンにも小型のカメラが大抵付けられている。あるいは,敵の武器システムにも大抵の場合,目標監視・捕捉用のカメラが付いていることが多い。そのため,ドローン自体もしくは敵の武器システムを高出力レーザーによって破壊することは難しいといった場合でも,カメラに向け高出力レーザーを照射し一時的に無効化もしくは破壊してしまえば,そのドローンもしくは武器システムとしての機能を失わせることが可能である。実際のところ,カメラセンサによって有効なレーザー波長が異なることや,カメラ妨害に効果的なレーザーのビームパターンの検討など,高出力レーザーによる光学センサ妨害にはまだまだ研究の余地があり,弊所でも実験及び検討を実施しているところである。しかし,少なくとも高出力レーザーが光学センサ妨害(破壊)に有効であることは間違いなく,目標破壊だけでなく光学センサ妨害が可能である点も,高出力レーザーシステムの強みの一つである。レーザーの方式によっては出力が可変であるため,出力次第で,相手への威嚇射撃→光学センサ飽和(一時的な妨害,照射を停止すると回復)→光学センサ無効化(恒久的なカメラへのダメージ)→目標破壊といったように,臨機応変に攻撃の種類を変更可能であり,多様な使われ方が考えられる。

1.3 高出力レーザーシステムに必要な技術

ここからは,高出力レーザーシステムに必要とされる技術について説明する。まずは,ある意味当たり前であるが,レーザー自体の「高出力化」が必要である。前述の通り,レーザーシステムが目指す目標破壊は,熱エネルギーを一定時間与えることによる熱破壊であるため,高ピークパワーのパルスレーザーではなく,多量のエネルギーを与えられる高出力のCWレーザーを用いることが主流である。また,ただひたすらに高出力化だけ追い求めればよいわけではなく,もう一つの指標として,レーザービームの遠方での集光性を表す「ビーム品質」の良さも重要である。工業利用されるレーザー加工機に使用されるレーザーの中には,比較的高出力であるものもあるが,それらは遠くても数mの範囲内でしか伝搬させない。他方,防衛用途で使用されるレーザーは,少なくとも1 km程度は伝搬させる必要があり,かつ1 km先で目標サイズ程度もしくはそれより小さく集光する必要があるため,工業用のレーザーと比べはるかにビーム品質が重要となる。一般的に,レーザーの高出力化とビーム品質の良化はトレードオフの関係にあり,両方を両立した光源を開発する必要がある。それが高出力レーザーシステムを実現するために必要な技術の一つである。

また,レーザー1本だけで高出力を目指すのは限界があるため,ビームを高精度に複数本束ねるビーム結合技術も必要となる。ビーム結合方式には,CBC(Coherent Beam Combining)やICBC(Incoherent Beam Combining)の1種であるSBC(Spectral Beam Combining)などがある1)。CBCは,複数ビームの位相を制御することで,ビーム品質を保持したまま単一の高出力ビームに合成する方式であり,大気揺らぎ補償システムとの親和性が高く,一方,SBCは,波長がわずかに異なる挟線幅の複数ビームを回折格子等の光学部品を用いて同軸上に集光させる方式である。防衛用レーザーシステムにおいては,システムの中でビーム結合に使用できるスペースは限られているので,限られたスペースの中で,高ビーム品質を保ったまま,複数ビームを結合する方式を確立する必要がある。

更に必要となる技術は高速度の目標を追尾し続ける追尾技術である。どれだけ高出力かつビーム品質の良いレーザーが実現しても,当たらなければ意味が無い。その上,高出力レーザーは火砲とは違い,一定時間目標にレーザーを当て続けなければならないため,従来の火砲より高精度な追尾精度が求められる。そのため,レーダー等である程度の位置を標定するだけでは不十分で,最終的に光学カメラ等で高精度に標定し,その状態で目標をロックして目標を照射終了まで追いかける高度な追尾技術が求められる。

レーザーのための電源冷却技術など,他にもレーザーシステムに必要とされる技術はあるが,代表的かつチャレンジングな技術はここで紹介した,レーザーの高出力化及び高品質化,レーザーの効率的な結合技術及び高精度な追尾技術の3点である。

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