筑波大,タンパク質のラセン発光を観測

筑波大学の研究グループは,緑色発光タンパク質GFPから,らせん状に偏光面が回転する現象を確認した(ニュースリリース)。

GFPはその緑色発光性を用いたマーカーとして生命科学の分野で幅広く用いられている。しかし発光の仕組みは解明される一方で,GFPから放たれる光そのものの性質については研究がなされてこなかった。

そこで,GFPの発光の特長を知るため,物質工学の手法で可視領域での光吸収,蛍光発光などを測定した。また円偏光二色性吸収スペクトル測定により,GFPの光学活性を確認した。そして円偏光二色性発光測定を行ない、GFPそのものが円偏光発光していることを知るに至った。

GFPサンプルの分光学的性質を調べ,円偏光二色性発光現象を確認した。GFPを水中で励起光を照射しながら円偏光二色性発光スペクトルを測定した。

このGFPをポリビニルアルコール(PVA)に練り込んだ複合薄膜を作成し,390nmの励起光を照射すると,緑色(495-570nm)の領域に円偏光発光を示し,左回りの円偏光が発光されていることがわかった。

このPVA/GFP練り込み薄膜は発光性を持つだけでなく,長期間の発光現象が保持された(フィルム作成5年後も乾燥下で発光を確認)。このことは,PVAによりGFPが保護されるとともにタンパク質特有のカイラルな立体構造も保持されるため,発光現象が続くことを意味する。

研究により,GFPから円偏光が放たれていることに関連し,自然界の発光生物の多くが,光のカイラルである円 偏光を輝かせている可能性が示唆された。今後は,GFPのみでなく,赤色蛍光タンパク質RFP,黄色蛍光タンパク質YFPの分光特性も調べていくという。

現在,有機物質の発光現象は新しい電子デバイスへの応用が期待されている。すでにπ共役系低分子や導電性高分子の前駆体であるπ共役系高分子が有機ELディスプレイに実用化されている。しかし未だ生物の発光現象を直接電子デバイスに用いた例はない。

この手法は生体物質を合成高分子と組み合わせ,新しい発光体を作成する試みの初期段階と定義できる。特に生体高分子はらせん構造を形成しており,その発光性タンパク質は円偏光を発光するので,全方位光(通常光),直線偏光に加えて円偏光を新しいシグナルの伝達として活用できる可能性がある。

今回見出した,GFPからの円偏光の発光現象は,生体光学活性高分子であるタンパク質のカイラル構造に起因 する。タンパク質は高度に統制された光学活性体であり,これからの発光であることから円偏光は二義的な性質ではないかとしている。

つまり,本来発光シグナルを送るという機能からの副産物としてらせん状の円偏光が放たれているために円偏光発光現象自体は生命活動に直接には役立ってはいないのではという。これは生態学や生命体の器官学からの研究が必要であり,今後の課題だとしている

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