阪大ら,高温超伝導相の結晶構造をX線回析で解明

大阪大学,独Max Planck化学研究所,高輝度光科学研究センターの研究グループは,大型放射光施設SPring-8において,ダイヤモンドアンビルセルを用いた超高圧・低温下での電気抵抗測定と高強度の放射光マイクロX線回折実験を組み合わせた複合実験によって,150万気圧で出現する硫化水素の203K(マイナス70℃)を超える高温超伝導相の結晶構造を明らかにした(ニュースリリース)。

超伝導体はエネルギー問題を解決する極めて重要な物理現象として注目されている。しかし,超伝導が発現する温度(超伝導転移温度)は非常に低く,冷却に必要な寒剤である液体ヘリウムは高騰化の一途をたどっている。そのため,超伝導転移温度を室温まで近づける,「室温超伝導体の実現」に大きな期待がかかっている。

大気圧では超伝導を示さない物質でも、圧力をかけることで超伝導が現れることが知られており,その中でも,水素は400万気圧を超える超高圧下で室温超伝導体となることが理論的に予測されていた。これを証明するには400万気圧という超高圧下での極めて難しい測定が必要となる。しかし,水素を多く含む物質(水素化物)であればより低い圧力で高い超伝導転移温度が発現することが期待されていた。

2015年には,硫化水素(H2S)が150万気圧で絶対温度203度(マイナス70℃)もの高温で超伝導体となることが発見された。この高温超伝導の機構を解明し,更に高い超伝導転移温度を示す物質を探索していくためには,高圧力下の硫黄水素化物の結晶構造の情報は必要不可欠となる。

この報告の後,理論計算を行なういくつかのグループによって高圧力下の結晶構造が理論的に提案され,その高い超伝導転移温度が立方晶構造のH3Sで実現している金属水素に起因することが示唆された。現在,世界中でこの超伝導の再現実験や結晶構造の研究が行なわれているが,超高圧発生などの実験的な難しさのために研究が進んでいなかった。

今回の研究の研究対象である硫化水素は軽元素で構成されるうえ,超高圧発生のために試料サイズが直径30µm以下となり極めて小さいため,通常の実験室X線発生装置での測定ができない。そのため,研究グループは高強度・高エネルギーかつ,マイクロオーダーの径の小さなX線が使用できる大型放射光施設SPring-8の高圧専用ビームラインBL10XUに着目し,低温・高圧下のX線回折実験とともに電気抵抗測定を行ない,その高温超伝導相の結晶構造を調べた。

その結果,硫化水素H2S分子が高圧下でH3Sに構造変化し,このH3Sが超伝導を示していることを世界で初めて明らかにした。また,同時に計測した超伝導転移温度の圧力変化から,超伝導相には2つの構造があり,その2つは理論計算で予測されていた六方晶構造のH3Sと立方晶構造のH3Sであることがわかった。

この成果は,硫化水素の高い超伝導転移の解明にとどまらず,室温超伝導への開発指針を示すものであり,さらには高圧力下に広がる物質開発の推進にも新たな知見を与えるものだという。

この研究によって室温超伝導が現実味を帯びてきたことから,今後は硫化水素の周辺物質(硫化水素に似た物質)の研究が盛んになるとしている。研究グループは,超高圧と低温に構造解析を加えた実験および理論計算技術を駆使して,室温超伝導体の実現を目指す。

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