阪大ら,ディラック電子を制御する磁石を発見

大阪大学,東京大学,東北大学らの研究グループは,ディラック電子を有するビスマス(原子番号83)の二次元層とユーロピウム(原子番号63)等からなる磁性ブロック層が積層した磁性体の合成に成功し,ディラック電子の超高速伝導が磁気状態に依存して劇的に変化することを発見した(ニュースリリース)。

固体中の電子の運動が質量のない粒子として記述できるディラック電子系物質は、黒鉛の単原子層(グラフェン)を筆頭に、極めて高い移動度を持つため、次世代エレクトロニクスへの応用が期待されている。

研究グループは,ディラック電子と磁石の性質が共存すると予想される高品質単結晶の層状物質(EuMnBi2)の合成に成功した。この物質は,ディラック電子状態を担うビスマス層と,磁石の性質を担うユーロピウム等からなるブロ ック層が積層したハイブリッド構造を特徴とする。

研究では,この物質においてディラック電子と磁気状態が互いに強く結びついていることを実証するために,強磁場中(約30-60テスラ)の電気抵抗測定を行なった。さらに磁気状態の解明に向け,放射光エックス線の磁気散乱実験も行なった。

その結果,ユーロピウムの磁気秩序に伴い電気抵抗率が大きく変化することを発見した。特に面直方向へ磁場を加え,磁気モーメントの方向を90度回転させると,面直方向への伝導が1桁近く抑制され,ディラック電子を面内に強く閉じ込めることが出来ることがわかった。

さらにこの状態では,ホール抵抗が量子化抵抗値(約25.8kΩ=h/e2)を(半)整数で割った値で一定となる量子ホール効果が実現していることが示唆され,ディラック電子がほぼ理想的な二次元系に達していることを見出した。

さらにこの効果を利用して,ディラック電子を電気伝導層であるビスマス層(二次元層)内に強く閉じ込めることにより,ディラック電子層が積層したバルクの磁性体において初めて,ホール抵抗値が離散的となる半整数量子ホール効果を実現した。

研究成果は,ディラック電子の強相関量子伝導現象という新規学術分野の開拓だけでなく,超高速で省エネルギーなエレクトロニクスへの基礎となる超高速スピントロニクス実現に向けた新機軸になることが期待される。

今回の研究成果は,今までになかった強相関ディラック電子物質という新し いスピントロニクス材料を切り拓く結果であり,今後は超高速かつ省エネ動作が可能な磁気デバイス(ハードディスクのヘッドや磁気抵抗メモリMRAMなど)への応用が期待されるとしている。

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