東大ら,精緻な重力レンズモデルの構築に成功

東京大学および国立天文台の研究グループは,2015年2月にアルマ望遠鏡が撮像したモンスター銀河(爆発的に星々を生みだしている大質量銀河)「SDP.81」をもっとも精緻に再現できる重力レンズ効果モデルを,世界に先がけて作り上げた(ニュースリリース)。

このモデルでは,SDP.81周辺の重力場の歪みを高精度で補正した,いわば重力レンズの乱視矯正を独自にとりいれることにも成功した。

この結果,重力レンズ効果によって拡大されたSDP.81の詳細な内部構造を解明しただけでなく,重力レンズ効果を引き起こしている手前の銀河に超巨大ブラックホールが存在することを世界で初めて示した。

重力レンズ効果とは,アインシュタインの一般相対性理論によって予言される,質量が時空の歪みを介して光路を曲げる現象。重力レンズ効果は,非常に重い天体の周囲で必ず生じ,その向こう側の天体の見かけの姿を拡大・増光する性質がある。

なかでも,距離の異なるふたつの銀河が視線方向にほぼ完全に重なるときにだけ生じる「アインシュタイン・リング」は,より遠い銀河の詳細な構造を拡大して観察したり,手前の銀河がもつ恒星やブラックホールなどの質量を測定したりできる。

SDP.81は,地球から距離117億光年に位置する爆発的に恒星を生み出している銀河で,その手前に位置する距離34億光年の銀河の重力(アインシュタイン・リング)によって,その姿がリング状に引き伸ばされている。

アルマ望遠鏡の画像データは,(a) 恒星や惑星の材料となる低温の分子ガスや塵が放射するミリ波を高い感度で検出し,(b) ハッブル宇宙望遠鏡の解像度をしのぐ0.023秒角(人間の視力で2600に相当)という高い解像度で取得された。

このデータには背景のモンスター銀河や前景銀河のブラックホールの謎を解く鍵が秘められていると期待されていたため,世界中の研究者が高い関心を寄せていた。

しかし,アインシュタイン・リングは完全な円弧ではなく,屈曲していたり分裂していたり細かい粒を持っていたりするなど,構造があまりに精緻かつ複雑なため,物理的な解釈は困難をきわめていた。

今回の研究によって,世界最高水準の解像度と感度をほこるアルマ望遠鏡と重力レンズを組み合わせることで,人間の視力に換算して13,000というきわめて高い解像度が達成できることが示された。

また,背景のアインシュタイン・リングを詳細に分析することで,重力レンズ効果を引き起こす銀河の詳細な構造(質量分布)を逆算し,超巨大ブラックホールの質量をより直接的に推定することも可能になった。

今後は,視力10,000を超える高い解像度と微弱な信号も逃さないアルマ望遠鏡と重力レンズの組み合わせによって,なぜモンスター銀河が形成されるのか,どのように超巨大ブラックホールが成長するかが明らかになると期待されるとしている。

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