産総研が開発したサブミクロン球状粒子の生成法と,その光学応用

ランダムレーザへの応用

また同研究グループは, 北海道大学 電子科学研究所准教授の藤原英樹氏,九州大学 先導物質化学研究所助教の辻剛志氏(現島根大)と共に, 液中レーザ溶融法によって合成した酸化亜鉛(ZnO)粒子を用い,発振特性に優れたランダムレーザの発振にも成功している。

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ZnOサブマイクロメートル球状粒子膜の電子顕微鏡写真と作製したランダムレーザの発振特性(出展:産総研)

ランダムレーザは,波長オーダーの不規則な屈折率分布を持つランダム構造を利用することで,明確な共振器構造が無くても光の多重散乱とその干渉効果によって発振する。ナノ粒子の凝集体や基盤表面のラフネス等を利用する事で,簡便かつ安価に作製が可能なことから注目を集めている。

しかし,ランダム構造を利用するために・多波長で発振する・レーザ発振ピークのS/N比が低い・発振しきい値が大きい,など実用化には多くの問題点があった。そこで研究グループは,既にランダムレーザ発振で実績のあるZnOのサブミクロン球状粒子を応用することで,発振特性の向上と制御を試みた。

ZnOの発光波長は380-390 nmであり,ランダムレーザを発振するのに最適な粒径は約200 nmであることがそれまでの研究で明らかになっていた。研究グループは,市販の不定形ZnO粒子(平均粒径:100 nm)を水中に分散させ,液中レーザ溶融法によって平均粒径が約212 nmの球状ZnO粒子を生成した。ここでは用いたのは,波長355 nm,パルス幅6 ns,繰り返し周波数10 Hzの非集光パルスレーザだ。

次に,作成した球状ZnO粒子を分散させた液に緑色の蛍光ポリスチレン粒子(ポリマー粒子,平均粒径:900 nm)を加え,ガラス基板上に滴下し,厚さ約100 µmの膜を作製した。研究グループは,均一サイズの光散乱体の集合体中に点欠陥を導入すると,特定の波長領域の光を空間的に閉じ込められることを検証しており,ポリマーがその役割を果たす。

この膜に,励起光としてパルスレーザ(波長:355 nm,パルス幅:100 ps,繰り返し周波数:1 kHz)を照射したところ,ポリマー粒子の場所でおよそ波長380 nmの単一の鋭いレーザ発振ピークを観測した。励起光の強度をしきい値の5倍まで上げても,レーザ発振ピーク波長のふらつきや他のピークの発生はなかったほか,一般的なランダムレーザに見られるようなバックグラウンド信号の蛍光ピークの狭線化や増大も観測されず,良好なレーザ発振が確認された。

これにより,液中レーザ溶融法で生成したサブミクロン球状粒子により,小型で安価なレーザ素子が容易に作製できる可能性が示された。低価格で単色性が要求される小型光源,家庭用ヘルスモニター用分光装置,照明用素材など発光素子を要する電子デバイスへの応用だけでなく,光触媒反応や光電変換,センサ等の大面積化や高機能化を必要とする光デバイスに向けた簡便・安価な光反応場としての応用など,幅広い光技術への応用が期待できる成果である。

また,液中レーザ溶融法は光学技術への応用だけではなく,腫瘍細胞のみを選択的に破壊する,がん治療の一種であるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の治療効率を高めるため,ボロンカーバイド(B4C)の粒子化に応用する研究も進められている。

石川氏らは今後,実験条件の検討などにより粒子サイズの制御性をさらに向上し,量子ドット増感太陽電池のさらなる変換効率の向上や,ランダムレーザの他の波長の発振など,さらなる高機能デバイスの実現を目指すとしており,応用を含めたその動向が注目される。