パワー半導体とイメージンセンサーの両輪で挑んだ日本市場の一年とは

-御社のビジネスにおける強みはどこにあるのでしょうか?

 我々にはアドバンテージをお客様に提供し,ビジネス広げて社会に貢献していく,4つのS(Supply,Scale,Scope,Superior Technology)があります。まずSupplyですが,シリコンカーバイドの生産をダイからモジュールまで,完璧に垂直統合できているのは弊社だけです。また我々は過去数十年に渡って車載やインダストリアルの領域に製品を提供しています。例えばパワーモジュールはこれまでに5億個を出荷しているなど,品質や量産規模(Scale)に実績があります。我々の低電圧から高電圧に至る幅広いポートフォリオは,お客様の要望に対して十分な範囲(Scope)でサポートができますし,ダイからモジュールまで自社生産する中で,個々の製品ではなくダイとパッケージの組み合わせ(Superior Technology)によって,最も良いソリューションを提供できます。

我々はend to endで自社生産しているので,サブストレートの生産がキーになってきます。Siのインゴットは数十時間で150cmくらい成長するのに対し,SiCは約2週間で1インチしか成長しないので,量産ではこの領域が一番のネックとなります。そこで我々は約2年前にSiC製造を手掛けるGT Advanced Technologiesを買収しています。買収後のアウトプットは,サブストレートが約10倍,ダイが12倍,パッケージが4倍にそれぞれ改善し,歩留まりは1.7倍になっています。我々は2023年にシリコンカーバイトで10憶ドルの売上げを目指していますが,第一四半期が終わった時点でこれを達成できる進捗となっています。

-イメージセンサーの戦略はどうでしょうか?

  我々の資産の両輪は片輪がSiCで,もう片輪がイメージセンサーです。2023年第一四半期のグローバルにおけるパワー半導体とイメージセンサーの売上比率は,前者が10億1,280万米ドル,後者が3億5,410万米ドルです。このうちオートモティブでは,インダストリアルよりもイメージセンサーの売上比率が大きくなります。そのポジションは,車載でシェア46%,特にADASの領域では68%のシェアを持っています。このポジションに辿り着くまでには,過去45年にわたって買収した会社のテクノロジーが積み上げられています。

その一つにダイナミックレンジがあります。イメージセンサーは,自然界の明るさ・暗さをいかにリアルに捉えるかが大事です。これまでの製品では白飛びしてしまうような明るい部分も,我々の製品ならそのまま捉えられます。また,低照度時,特にADASでは人や自転車をどれだけ鮮明に捉えられるかが重要なポイントですが,暗く見えにくい条件でも我々のテクロノジーなら捉えることができます。自動車外部の撮影はもちろん,夜の運転席でも乗員の姿を捉えられることが重要になってきます。

同社センサーのHDR機能(提供:オンセミ)

また,低消費電力化はデバイス共通の課題ですが,イメージセンサーも同様です。例えば従来のチップは,何かを捉えるためにセンサー全ての領域で電力を使っていましたが,新しい世代は使わない領域の電力消費は抑え,使うところだけ動作させることで,30%~70%の電力改善を実現しています。

ISO2626(車載用機能安全規格)のように,自動車業界ではファンクショナルセイフティーも当然の認識ですので準備していきます。あとはサイバーセキュリティ。ADASや自動運転に向かう中で,乗っ取りやデータの盗難,逆に悪意のあるデータを差し込むといったことが行なわれると,自動運転対する信頼の問題になります。これに対してISO21434(自動車サイバーセキュリティ対策規格)がありますが,こうしたところに準拠,または準拠させるためのサポートができる製品を提供できるように開発を進めています。

-産業機器市場にはどういった感想をお持ちですか?

やはりネットゼロや低消費電力化して効率を高めようというのは車と同様に強い要望があります。あとはマシンビジョンです。工場のアウトプットを改善するために高精度なビジョンニング,そして撮影の効率を改善することが電力消費や地球環境の改善に繋がります。カーボンフットプリントなどを考えても,マシンビジョンは我々が貢献できる重要な分野になると思っています。

─次はどのような製品が登場しますか?

まだ開発段階ですが,我々はスマートiToFと呼ぶ製品を準備しています。いわゆるdToFではなくインダイレクトのToFで,特長として3つのポイント,Faster,Highest Sensitivity,Intelligentがあります。内部にメモリを積むことで捉えた距離を高速でデータ処理するので,例えば動いている3D情報も取得できます。また,ピクセルアレーのテクノロジーの改良により感度を2倍以上に改善しようとしています。さらにDepth Processingの搭載によりシステム全体をシンプルにできるので,例えばADASの車内のモニターやインダストリアルでのマシンビジョン,そういったところに貢献できると考えています。この製品はサンプル出荷を来年の初頭に予定しています。

開発中のiToFセンサー(提供:オンセミ)

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