早大ら,屈折率1.8超の分解可能な透明プラを開発

早稲田大学と独ミュンヘン工科大学は,硫黄を含む水素結合を組み込んだ独自の高分子を設計し,従来達成が難しいとされていた1.8以上の超高屈折率と透明性を両立し,使用後には分解できる新しいプラスチックを開発した(ニュースリリース)。

高屈折率ポリマー(HRIP)は発光デバイス(有機発光ダイオードなど)の輝度や効率の向上に欠かせない材料で,デバイスのコーティング剤として使うことでより多くの光を取り出せるようになる。一方,HRIPの開発において屈折率と可視光透明性はトレードオフの関係にあるため,1.8以上の超高屈折率と,発光素子に適用できる十分な透明性を併せ持つHRIPの実現は困難だった。

研究グループは,HRIPがフィルムなどの固体状態で生じる高分子鎖の隙間(空気など)が屈折率低下の要因であると捉え,分子間の相互作用力の一つである水素結合を組み込むことで隙間を減らし,屈折率が向上すると着想した。

その結果,透明性を保てる範囲で硫黄含量をできるだけ大きくしつつ,この隙間の割合を減らした分子設計を施すことで,HRIPの屈折率と透明性を同時に向上させることに成功した。

研究グループは以前,硫黄を含むポリマーの1つであるポリ(フェニレンスルフィド)の側鎖に,水素結合性のヒドロキシ基を導入することで,屈折率が劇的に向上することを見出している。今回この概念を拡張し,HRIPの構造としてポリ(チオウレア)に初めて着目した。

チオウレアに含まれる硫黄原子は分極しやすいため,密で無秩序な「分極性水素結合」を形成できる特殊な性質を示し,可視光域(400-800nm)で超高屈折率(1.8)と十分な透過率(92%以上)を両立した。

溶液プロセスにより均一で透明な薄膜も作製でき,ポリ(チオウレア)をコーティングした発光電気化学セル(LEC)の外部量子効率は最高12%(相対比)向上した。またポリ(チオウレア)に対し,原料のジアミン化合物を添加して50℃で加熱するのみで,急速に分子量が低減し原料に近いレベルまで分解できることを明らかにした。この性質は材料の循環性や再利用性の向上に寄与し,寿命を高めることにも繋がるという。

開発したポリ(チオウレア)は,従来のトレードオフを解消できるほか,種々の基板に対して簡便に製膜でき,「一塗りするだけで」発光効率を上げることができる。

研究グループは,有機ELディスプレイの輝度向上や,より高画素なマイクロレンズを実現できる透明材料の開発に繋がるほか,環境適合性の高い光学プラスチックの設計指針を提示する重要な知見を与える成果だとしている。

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