眼に装着する究極のディスプレー─ホログラムが可能にする未来とは

─実験はどのように行なったのでしょうか?
(a)SLMを通して立体像と実風景が同時に観察できるAR表示の原理確認実験 (下左)1500 mmにピントを合わせた結果(下右)2000 mmにピントを合わせた結果 (b)実際のコンタクトレンズにフォトポリマーのホログラムを取り付けた実験(c)高解像度・高開口率のSLMを用いた実験((a)全ての写真および(b),(c)の結果写真の提供:高木研究室)
(a)SLMを通して立体像と実風景が同時に観察できるAR表示の原理確認実験 (下左)1500 mmにピントを合わせた結果(下右)2000 mmにピントを合わせた結果 (b)実際のコンタクトレンズにフォトポリマーのホログラムを取り付けた実験(c)高解像度・高開口率のSLMを用いた実験((a)全ての写真および(b),(c)の結果写真の提供:高木研究室)

原理確認実験では,SLMを通してシースルーの実現と同時に再生像も見えることを示したかったのですが,位相変調型のSLMは反射型しかなく,振幅変調型の透過型SLMを使って実験台上で行ないました。振幅変調型のSLMはツイストネマティックになっているので,円偏光を使って位相変調をしました。円偏光にするために1/4波長板を入れ,レーザーバックライトは導光板にHOEを貼り付けています。ただし,振幅変調型のSLMは位相変調用の最大値が3/2πまでしかいかないので,再生像はあまりきれいになりません。

実験は車と鹿の置物を異なる距離において,それぞれにピントを合わせました。鹿が1500 mmの位置にあって,ピントを合わせると小文字の「ar」という文字,2000 mmの位置にある車にピントをあわせると大文字の「AR」が見えます。再生像の脇にホログラム像の繰り返し像があり,シースルー画像の背景にもうっすらと出ていますが,これは使っているSLMの開口率が0.7と小さいことが原因です。

さらに,実際のコンタクトレンズに透明のホログラムを付けて実験してみました。電子的なものではなく,コンタクトレンズにフォトポリマーで作った位相型の透明なホログラムを貼っただけです。ソフトコンタクトレンズは形状が安定しないのでハードコンタクトレンズを使い,レーザーも内蔵はまだ無理なので,下から当ててホログラム像を再生しています。

最後はシールスルー特性を評価するために,反射型のSLMですが解像度と開口率が高いものを使うとシースルー特性が良くなることを示す実験です。ビームスプリッターでホログラムと風景を重畳して,シースルーのように同時に見えるようになっています。ただ,画角がこれだと小さいので,画角を広げるテーマも研究しています。

─現在,開発はどういった段階でしょうか?
実用化に向けた課題
実用化に向けた課題

こういうものを自分たちだけで作るのは難しいので,国のプロジェクトとしてやろうと,色々な方と議論をしています。今のところコンタクトレンズはシードと議論しています。あと液晶の研究者やメーカー数社とレーザーの会社,それからウエットな回路の技術者や研究者とグループを作っている感じです。今は課題出しをしていますが,それが国プロとして提案していくにあたって必要な研究テーマになると思います。議論の内容ですが,もともと消費電力の少ない液晶デバイスは,コンタクトレンズに入る面積では消費電力はさらに少なくなります。ただ,角膜全体を覆うには球面化の課題があります。

さらにレーザーにも問題があることがわかってきました。半導体レーザーの研究開発は精力的に進んでいますが,その方向は主に高出力化で,低出力化や電流の低しきい値化の研究は止まっている状態です。出力は数十nWあれば十分で,しきい値電流も面発光レーザーの登場でナノアンペアが実現できると期待していましたが,現状は1 mA程度だそうです。そうすると液晶よりも半導体レーザーのほうの消費電力が大きくなってしまいます。

バッテリーについては,少なくとも爆発の可能性があるリチウムイオンは使えませんが,酸化物の全固体電池が電気自動車の関係でかなり性能が上がっています。半導体レーザーはともかく,液晶デバイスや駆動回路の消費電力を計算するとだいたい数十μWなので,一日2~3時間使うくらいなら全固体電池を周辺部に入れてなんとかなるはずです。あとはアンテナや通信用の技術も必要です。ホログラム計算はそれなりに重いので,スマホでやった結果を伝送することになるでしょう。

レンズ材料も意外と大変だとわかってきました。懸念だった酸素透過性は,一緒に開発するシードの人たちと検討していますが,問題は耐久性です。今のソフトコンタクトレンズはだいたい1dayとか2dayなので,あまり耐久性は考えていないそうです。さすがにスマートコンタクトレンズだと1年はもってほしいので,耐久性が重要になってきそうです。

Mojo visionも問題にしていますが,ユーザーインターフェースは瞬きを使ったり,目の回転を使ったり,他にもジェスチャーや音声などが考えられます。また,センサーの融合も必要です。カメラは難しそうですが,ソニーがコンタクトレンズの中にカメラを入れる特許を出しているので,いい方法があるのかもしれません。あと,コンタクトレンズディスプレーは目と一体化するので,目が動くと映像も同時に動いてしまいます。目の動きに合わせて映像の位置を調整するために姿勢を捉えるセンサーは,将来的には入れることになります。

─透過型の位相変調型SLMやレーザーの見通しはどうでしょうか?

液晶の研究者やメーカーと話していますけれども,コンタクトレンズの中に入れることも透明化することも恐らく可能です。問題はやはり球面化ですが,フレキシブルディスプレーの技術をうまく使えばできると期待しています。レーザーについては,しきい値電流をナノアンペアレベルまで下げるのは可能だと言われていますが,今のところニーズが無いのが難しいところです。これが製品化されれば大きな市場が見込めます。日本はスマートフォンでは完全に遅れましたから,コンタクトレンズディスプレーで復権してもらいたいですね。

─コストはどうお考えでしょうか?

最初はそれなりに高いものになるとは思いますけども,大量生産すれば値段は下がると思います。例えばスマホはケースがアルミなどでお金がかかっていますが,スマートコンタクトレンズはケースも無いですし,あまり高い部品も入っていません。レンズは高分子ですし,液晶デバイスや半導体部品,レーザー,バッテリーも物自体は小さく量産効果が期待できますので原価は意外に低いと思います。かなりの技術開発は必要ですが,うまくいけば安くできる気がしています。今,スマホも人によっては1年くらいで買い替えるので,1年くらいはもつような耐久性で,スマホよりちょっと安い値段でできるといいですよね。

(月刊OPTRONICS 2022年11月号)

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