早稲田大学・教授の北智洋氏らの研究グループは、波長可変レーザーと高速光変調器を一体化した光送信器を開発した(ニュースリリース)。67 nmの広い波長範囲に対応し、レーザーの冷却制御を使わず、低電圧駆動で最大180 Gbit/sの超高速光通信を実現した。データセンター間通信DCIの大容量化や省電力化、光通信装置の小型化や高集積化につなげるとしている。
生成AIの急速な普及により、データセンター間でやり取りされる情報量が増え、高速かつ低消費電力でデータを処理する光通信技術が求められている。大容量の光通信では、異なる波長の光に情報を載せ、1本の光ファイバーを多数通して同時に送る波長多重通信が使われる。そのため、必要な波長を選べるレーザーと、電気信号を高速に光信号へ変換する光変調器が重要となる。
一方、データセンター間での膨大な通信量に伴って、多数の光部品を小さなチップ上に集積する必要が発生する。さらに、光送信器の1台あたりの消費電力を小さくすることも重要となってくる。
これまで、シリコンフォトニクスを利用した小型の波長可変レーザーと、薄膜LNを用いた高速・低電圧の光変調器は、それぞれ開発が進められてきた。しかし、異なる材料で作られたこれらのデバイスを一体化し、高速通信と小型化、低消費電力化を同時に実現することが課題だった。

図1 シリコンフォトニクス波長可変レーザーと薄膜LN光変調器を集積化した小型・低消費電力の光送信器
今回研究グループは、光の損失が小さく安定した動作に適したシリコンフォトニクス技術をレーザーに採用し、光変調器には低電圧で高速に動作できる薄膜LNを用いた。両者は単純につなぐだけでは安定動作が難しいため、波長に対する特性をあらかじめ協調して設計する手法を開発した。これにより、余分な光部品や複雑な制御を追加せず、直接一体化して安定に動作させることに成功した。
開発した光送信器は1529.1~1595.8 nmの約67 nmにわたって波長を変えることができ、波長多重通信に広く使われるCバンド全域を含む。波長可変レーザー上に設けた二つのマイクロヒーターに加える電力を調整することで、レーザー光の波長を高精度に制御すことを確認した。このように広い波長範囲から通信に使う波長を選べるため、多様な光通信システムに対応できる。また、レーザーを一定温度に保つ冷却制御を行わなくても、安定して動作することを確認した。

(図2) ヒータによるレーザー発振波長の制御
高速通信実験では、約0.6 Vの電気信号で光変調器を駆動し、最大180 Gbit/sの光信号を生成した。同じ条件で3 V駆動と比較すると、駆動電力は電圧の二乗に比例するため、理論上は約1/25まで低減できる。多数の光送信器が使われるデータセンターでは、こうした低電圧化が省電力化につながる。
実験には、二値変調を用いた。この方式では180 Gbit/sは180 Gbaudに相当し、400G級のデータセンター間通信で用いられている約60 Gbaudの約3倍の信号速度を実証した。
信号波形を重ね合わせて表示したアイパターンでは、0と1を明確に判別でき、信号を正しく伝送できることを示した。さらに、薄膜LN光変調器の高い線形性を生かし、信号波形のひずみを補正するデジタル信号処理DSPによる波形補償なしで、アイパターンを確認した。

(図3) 180 Gbit/sでのアイパターン
異なる材料の光学特性を接続した今回の設計手法は、より高機能な光通信チップへの展開も期待されている。今後は、より高速な信号源や測定装置を使った動作検証と、光変調器や接続部分の光損失低減を進める。送信器全体の消費電力は従来方式と直接比較しておらず、光回路と駆動回路を含むシステム全体で評価し、さらなる省電力化を図るとしている。





