更に面白いのが,睡眠を剥奪した場合です。マウスが寝たなと思ったらホームケージを揺らして,1時間断眠させます。すると次の日やっぱり記憶の定着が悪くなります。これは昔から知られていて,そういった研究から睡眠は記憶の定着に必要だと言われています。
次に断眠中,今度は光抑制じゃなくて光で高次運動野と第一体性感覚野の神経活動を活性化させます。そうするとどうなるのかと。このような実験はまだ世界で誰もやったことが無いのですが,なんと,マウスは断眠していたにもかかわらず,記憶を定着させていました。何も処置していないマウスに比べ,むしろ記憶力が向上していました(注:記憶を保持する期間が延びていた)。
これは驚きの結果で,記憶の定着には睡眠を必要としていない可能性を示します。徹夜での一夜漬けの記憶はすぐに消えると言われていますが,脳を適切に刺激すれば,長い間覚えていられるかもしれません。しかし,ここで重要な事は,“適切に”刺激することです。我々のマウスの実験の場合,先に挙げた二つの脳領域を同期的に活性化すると記憶力は向上しましたが,非同期で刺激すると,単に断眠した時と同様に記憶の定着は阻害されました。
─今後光遺伝学はどのように人間に適用されていくのでしょうか
去年,実用的なオプトジェネティクスツールの発表から10年ということで著名な研究者がレビューを書きました,そこでは皆が皆,きっと将来は人間にも使えるだろうと予測しています。
ただし,今のところ光感受性タンパク質は,ウイルスに入れて神経細胞に感染させて発現させるという方法が主流なので,人間に適用しにくいという欠点があります。タンパク質を発現させたトランスジェニックマウスを作るという方法もありますが,もちろんトランスジェニック人間なんて倫理的に作れません。
これは専門外なのでわかりませんが,例えばiPS細胞だとか再生医療で使われる神経細胞もありますから,そういった細胞に予め発現させておけばウイルスを使わずに済みます。それらの細胞をダメージを受けた脳領域に入れれば,光で活性化したり抑制したりできるかもしれません。あとは脳に光を入れるためには頭に穴を開ける必要があるので,別の改良も必要です。今のところ使える光は全部可視光ですから,例えば赤外線を使えれば,頭皮の上からコントロールできるかもしれません。
あとは磁石です。実際に今年,磁力でオプトジェネティクスをやったという発表がありました。もうオプトじゃないですけどね(笑)。ある特殊なタンパク質を神経細胞に発現させますが,そのタンパク質は鉄分が付くように設計されています。さらに,そのタンパク質は細胞内外のイオンを通すチャネルに付随しています。よって磁石を近づけると,鉄分がくっ付いていますから,物理的にそのタンパク質が動き,これにイオンチャネルも連動して物理的に開き,細胞内外のイオンが行き来するようになります。実際に生きたマウスで使えるようになっています。それを人間でもやれれば非侵襲的ですよね。







