─先生のご研究について教えてください
我々は皮膚感覚の知覚について研究しています。顔に集中している他の4感覚(視覚,嗅覚,聴覚,味覚)と違い,皮膚感覚って皆さん普段あまり意識していません。でも皮膚感覚は実はとても特殊で,五感の中で唯一,相手や物と直接触れあうことで出てくる感覚です。
例えば握手すれば僕の熱は伝わりますし,それによって皆さんの手の温度も上がって,僕の手の温度も変わる可能性があるし,握り具合によって皆さんの手も物理的に動きますよね。でも視覚の場合,僕が誰かの顔を見たからと言って,相手の顔が変わったりはしません。唯一,直接的に相手と触れ合うことができる感覚です。
皮膚は広げると畳一畳分の大きさになります。実は人間の中で最大の臓器です。重さは3キロぐらいあって,内臓で一番大きい肝臓は5キロ,脳で1.3〜1.5キロです。だから皮膚というのは脳の倍の重さがあります。しかも全身から感じられるのに,普段みなさんはあまり考えていません。皮膚感覚の解明は,特に視覚と比べるとかなり遅れています。
理由の一つは,実験の難しさにあります。皮膚感覚の特徴でもある「直接な接触」がその難しさです。視覚や聴覚刺激なら,動物から離れていても定量的に正確に与えることができますが,皮膚刺激の場合,やはり「直接」刺激しなければならないからです。毎回同じ圧力,同じ時間で皮膚刺激する事はなかなか難しい事です。我々は非常に弱い電気刺激により皮膚を刺激しています。
触られたっていう情報が皮膚から脳に伝わっていく経路はよく知られているのですが,脳の中となると情報が伝わる道路が密にあって,それ以上の経路がわかっていませんでした。ひとまず第一体性感覚野(主に皮膚感覚を司る部位)と呼ばれるところに情報が到達するのはわかっていますが,その後どうなっているのかはよくわかっていません。
一言で脳の神経活動と表現してもそれは多階層から成り立っています。単神経細胞,それらが集まった局所回路,広域ネットワーク回路が含まれます。私たちは2015年,それら各階層で最適な手法を使って,皮膚情報がたどる経路と皮膚感覚の知覚メカニズムを解明しました。その時に使ったのがオプトジェネティクスです。
まず,回路AとBがピンポンをしていること(反響回路)を見つけました。大脳新皮質には第一体性感覚野と高次運動野(運動を目的を持って状況適応的に発現させる部位)があり,皮膚からの情報はます第一体性感覚野からの高次運動野に行って,高次運動野からまた戻ってくる。この行って戻ってくる(反響)回路を誰も知らなかったので,この戻ってくる回路が皮膚感覚の知覚にどのように使われているのかも当然分かりませんでした。
そこで,抑制型のアーチロドプシンをマウスの高次運動野にウイルスを使って発現させました。高次運動野は他の領域にも投射している(神経的につながっている)のですが,ある細胞は第一体性感覚野に軸索を投射しているので,その軸索を光で抑制,つまり投射先で抑制しました。そうするとマウスは正常な知覚ができなくなりました。
この結果は,認知心理学で言うと適合的知覚(物があるがままに感じられるという知覚のこと)ができなくなることを示しました。つまり,高次運動野から戻ってくる回路は知覚に使われていたことが分かりました。






