キーマンが語った「光遺伝学」2017年に当誌が研究を紹介

ところが遺伝学的手法では,特定の細胞に,あるタンパク質を発現させることができるので,特定の細胞種を選択的に活性化できます。しかも光を使うので電極を刺さなくてもよいですし,ミリセカンドオーダーで電気と同じくらいの正確さで刺激や抑制をすることができます。

神経細胞は細胞体と,ほかの神経からの情報を受け取り統合して活動電位を出す樹状突起,活動電位を次に神経細胞に伝える軸索からなります。光遺伝学的手法では,細胞体に光を当てても,樹状突起だけでも,軸索だけでもかまいませんが,特に軸索に光を当てることで経路選択的になります。これにより,複雑な脳回路を各要素に分解することができます。

光の照射場所による伝達経路違い
光の照射場所による伝達経路違い

なぜ細胞体への光照射では経路選択的にならないかというと,電気刺激と同様に不特定の神経細胞が活性,または抑制されてしまうからです。光活性型蛋白質を領域Aで発現させた場合,ある細胞は領域Bに,別の細胞は領域Cに情報を送っています。その場合,細胞体がAにあるので,光照射されて活性化した細胞群は結果としてBにもCにも情報を送ることとなります。これでは経路選択的ではありません。領域AからBへの経路を選択的にコントロールする場合は,Aから伸びる軸索をBで光照射すればよいのです。

─タンパク質を発現させるというアイデアに驚かされます

光感受性タンパク質はある種の古細菌も持っていますし,あとはバクテリアも光に応じて逃げるたりするので,存在は知られていたんですね。それを単離してきて使ってみようという試み自体はずっと昔からあったのですが,今までできませんでした。それが2005年にやっと開花したのだと思います。光感受性タンパク質は色々な細胞が持っていて,重要なのはどの細胞のどの蛋白質の光変換効率が良いのかということです。Deisserothのグループは一番いいところを使っていたので素晴らしい結果を残せました。

具体的には緑藻類のクラミドモナスという藻のチャネルロドプシンというタンパク質なのですが,遺伝子配列を全部調べてその一部をマウスに入れられるよう,ウイルスに組込みます。ウイルスに感染した神経細胞はそのタンパク質を発現するようになります。これが遺伝学的手法です。

チャネルロドプシンというのは神経細胞を活性化します。これはこれで有用なツールですが,個人的には脳機能をより精査するうえで重要なのは抑制型を使うことだと考えています。ある神経活動を抑えた時にある脳機能がおかしくなるのであれば,その神経活動は必須であると言えますよね。でも活性型を使うと,そもそも人工的に活性化させる,それで脳機能が変わったとしても,それは人工的なことをやっているわけだから,巡り巡って脳活性がおかしくなった可能性もあります。だから重要なのは抑制する事だと考えています。

抑制型として我々はアーキロドプシンというタンパク質を使っています。抑制型タンパク質を用いてLoss of function(機能喪失)の実験を行ない,脳機能に重要な回路を見つけます。そのProof of Concept(概念実証)として,活性型タンパク質を用いてGain of Function(機能獲得)の実験を行なえばかなり信頼ある解釈が得られると思います。我々神経生理科学者は脳機能と神経活動との因果関係を知りたいと思っていて,それを調べるためには,この光遺伝学手法は絶対必要です。

キーワード:

関連記事

  • ノーベル賞のIceCube、忘れてならない千葉大チームの貢献

    2026年10月6日、2026年のノーベル物理学賞に、米ウィスコンシン大学マディソン校のフランシス・ハルツェン教授が選ばれた。授賞理由は「IceCube(アイスキューブ)ニュートリノ観測所への決定的な貢献と宇宙起源の高エ…

    2026.10.08
  • ノーベル賞2026を光技術と材料から振り返る 光遺伝学、IceCube、分子の「右と左」

    2026年のノーベル賞は、生理学・医学賞、物理学賞、化学賞の自然科学3賞が出そろった。研究対象は脳、宇宙、化学反応とそれぞれ異なるものだったが、光技術という側面から眺めると興味深い共通点が見えてくる。光は、生命現象を操作…

    2026.10.07
  • ノーベル化学賞2026、非対称性を思い通りに作れる手法で硤合憲三氏などが受賞

    2026年ノーベル化学賞は直接光技術に関連するものではなかったが、フランスの化学者Henri B. Kagan氏と、東京理科大の硤合憲三(そあい けんそう)氏に授与されることが発表され、昨年の北川進氏に続く日本人の受賞と…

    2026.10.07
  • ノーベル物理学賞2026、アイスキューブのHalzen氏に 光検出技術がニュートリノ天文学を支える

    スウェーデン王立科学アカデミーは10月6日、2026年のノーベル物理学賞を、フランシス・ハルゼン氏授与すると発表した(ニュースリリース)。 受賞理由は「アイスキューブニュートリノ観測所への決定的な貢献と、宇宙物理起源の高…

    2026.10.06
  • 今日6日、ノーベル物理学賞が発表 日本の光研究に高まる期待

    2026年10月5日からノーベル賞の発表が始まった。初日のノーベル生理学・医学賞は、光を使って神経細胞の活動を制御する「光遺伝学(オプトジェネティクス)」の発展に貢献したKarl Deisseroth氏、Peter He…

    2026.10.06

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア