ところが遺伝学的手法では,特定の細胞に,あるタンパク質を発現させることができるので,特定の細胞種を選択的に活性化できます。しかも光を使うので電極を刺さなくてもよいですし,ミリセカンドオーダーで電気と同じくらいの正確さで刺激や抑制をすることができます。
神経細胞は細胞体と,ほかの神経からの情報を受け取り統合して活動電位を出す樹状突起,活動電位を次に神経細胞に伝える軸索からなります。光遺伝学的手法では,細胞体に光を当てても,樹状突起だけでも,軸索だけでもかまいませんが,特に軸索に光を当てることで経路選択的になります。これにより,複雑な脳回路を各要素に分解することができます。
なぜ細胞体への光照射では経路選択的にならないかというと,電気刺激と同様に不特定の神経細胞が活性,または抑制されてしまうからです。光活性型蛋白質を領域Aで発現させた場合,ある細胞は領域Bに,別の細胞は領域Cに情報を送っています。その場合,細胞体がAにあるので,光照射されて活性化した細胞群は結果としてBにもCにも情報を送ることとなります。これでは経路選択的ではありません。領域AからBへの経路を選択的にコントロールする場合は,Aから伸びる軸索をBで光照射すればよいのです。
─タンパク質を発現させるというアイデアに驚かされます
光感受性タンパク質はある種の古細菌も持っていますし,あとはバクテリアも光に応じて逃げるたりするので,存在は知られていたんですね。それを単離してきて使ってみようという試み自体はずっと昔からあったのですが,今までできませんでした。それが2005年にやっと開花したのだと思います。光感受性タンパク質は色々な細胞が持っていて,重要なのはどの細胞のどの蛋白質の光変換効率が良いのかということです。Deisserothのグループは一番いいところを使っていたので素晴らしい結果を残せました。
具体的には緑藻類のクラミドモナスという藻のチャネルロドプシンというタンパク質なのですが,遺伝子配列を全部調べてその一部をマウスに入れられるよう,ウイルスに組込みます。ウイルスに感染した神経細胞はそのタンパク質を発現するようになります。これが遺伝学的手法です。
チャネルロドプシンというのは神経細胞を活性化します。これはこれで有用なツールですが,個人的には脳機能をより精査するうえで重要なのは抑制型を使うことだと考えています。ある神経活動を抑えた時にある脳機能がおかしくなるのであれば,その神経活動は必須であると言えますよね。でも活性型を使うと,そもそも人工的に活性化させる,それで脳機能が変わったとしても,それは人工的なことをやっているわけだから,巡り巡って脳活性がおかしくなった可能性もあります。だから重要なのは抑制する事だと考えています。
抑制型として我々はアーキロドプシンというタンパク質を使っています。抑制型タンパク質を用いてLoss of function(機能喪失)の実験を行ない,脳機能に重要な回路を見つけます。そのProof of Concept(概念実証)として,活性型タンパク質を用いてGain of Function(機能獲得)の実験を行なえばかなり信頼ある解釈が得られると思います。我々神経生理科学者は脳機能と神経活動との因果関係を知りたいと思っていて,それを調べるためには,この光遺伝学手法は絶対必要です。







