2026年ノーベル生理学・医学賞に「光遺伝学」 OPTRONICS ONLINEが2017年に研究を紹介
2026年のノーベル生理学・医学賞は、光で神経細胞の活動を制御する「光遺伝学(オプトジェネティクス)」の発展に貢献した研究者らに贈られた。光技術と生命科学を結びつけ、脳神経科学の研究を大きく進展させたこの手法について、OPTRONICS ONLINEでは2017年、理化学研究所の村山正宜氏へのインタビューで取り上げている。今回の受賞を機に、当時の記事を再掲する。
光遺伝学というツールで脳機能と神経活動の謎に迫る

◆村山正宜(ムラヤマ マサノリ)
理化学研究所 脳科学総合研究センター:行動神経生理学研究チーム チームリーダー
1977年10月生まれ。2006年東京薬科大学大学院 生命科学研究科卒業。博士(生命科学)。ベルン大学生理学部博士研究員を経て,10年より現職。その年,日本神経科学学会奨励賞を受賞。16年に生理学会奨励賞,文部科学大臣表彰・若手科学者賞を受賞。
もし,記憶を自由に操れるとしたら,あなたは忌まわしいあの日のことを消し去ろうとするのだろうか。それとも忘却のかなたに失った,何か大切なものを再び見つけ出そうとするのだろうか。
2014年,理化学研究所(理研)の利根川進氏らは,マウスの神経細胞群を光で操作することで「嫌な記憶を」「楽しい記憶」に書き換えることに成功したと発表した。さらに今年,アルツハイマー病モデルマウスの「失われた記憶」を,人為的に復元することにも成功し,世界を驚かせた。
これらのSF小説さながらの実験には,光遺伝学(オプトジェネティクス)という技術が用いられている。こうした成果を聞くとまるで魔法のようにも思えるが,いったいどんな手法で,光はどのように用いられているのであろうか。
今回は利根川氏と同じく理研に所属し,光遺伝学を用いた触覚知覚の脳神経回路メカニズムの研究で,2016年の文部科学大臣表彰・若手科学者賞を受賞した気鋭の研究者,村山正宜氏に話を聞いた。
─光遺伝学(オプトジェネティクス)について教えてください
光遺伝学とは,光によって活性化するタンパク質を遺伝学的手法を用いて特定の神経細胞に発現させ,光によって神経活動や臓器の活動を活性化させたり抑制したりするというのが基本概念です。光を使った遺伝学的手法なので光遺伝学と言われています。神経科学者の最大の目標の一つは,神経活動と脳機能との因果関係を見つける事です。光遺伝学はこれを可能にする強力なツールです。
歴史的には,2002年にMiesenbockがショウジョウバエを使って,光刺激で神経活動を活性化しました。2005年には,より実用的なオプトジェネティクスツールがKarl Deisserothグループから発表されています。論文発表前の北米神経科学学会での発表だったのですが,スタンディングオベーションだったそうです。光で神経活動をコントロールするというのはそれくらいエキサイティングな事です。
なぜかというと,それまで神経活動を活性化するには電極を脳に入れて通電するか,薬物注入しか方法はありませんでした。ところが電気で刺激すると,電極周りの不特定多数の神経細胞,さらにはそこを通過するあらゆる神経線維が活動してしまいます。仮にその電気刺激によって動物の行動が変わったとしても,それはどの神経細胞の活動が変わったからなのかが分かりません。





