理化学研究所と京都大学は,海洋性の紅色非硫黄光合成細菌の窒素固定化効率や固定化された窒素の代謝経路が,環境中の炭素源の種類に応じて変化し,細胞増殖速度に影響することを明らかにした(ニュースリリース)。
紅色非硫黄光合成細菌は,光合成と窒素固定の両方の代謝経路を有し,環境中に普遍的に存在する太陽光,二酸化炭素ガス,窒素ガスを用いて菌体を独立栄養的に増殖させることで,環境に対する負荷を低減しながら,有用物質を獲得できる。
一方で,光合成と窒素固定の両方を,同時に誘導する場合の代謝経路は複雑で,詳細については不明な点が多いのが現状となっている。
微生物の主要な構成因子であるタンパク質は,多数のアミノ酸から成る高分子化合物。そのアミノ酸は炭素骨格とアミノ態窒素を主要な構成成分とするため,炭素源や窒素源の代謝と微生物の増殖とは密接な関係にある。
窒素ガスを窒素源として,また,無機炭素源または有機炭素源を炭素源としたときのR. sulfidophilumの増殖速度を測定した。その結果,培養3日目に,有機炭素源を用いた場合は,無機炭素源を用いた場合と比較して約2倍高い増殖を示した。
このときの窒素固定化酵素活性を測定したところ,培養期間全体を通して,無機炭素源を用いた場合は有機炭素源の場合と比較して80~86%程度,活性が抑制された。
また,有機炭素源または無機炭素源を使用したときの,固定化された窒素がアミノ酸へ取り込まれる効率を,ガスクロマトグラフ質量分析計で得た同位体窒素15N量を用いて解析したところ,測定した全てのアミノ酸種において,15Nの取り込み効率は,有機炭素源の場合と比較して,無機炭素源を用いた場合に減少した。
一方,無機炭素源を用いた場合に対する,有機炭素源を用いた場合の15N取り込み効率の倍率変化を求めたところ,培養1日目においては,アミノ酸の種類によって違いがあり,最大で約3倍の差が見られた。
この倍率変化は培養日数が経過するにつれて減少し,3日目においては,アミノ酸の種類による大きな違いは示されなかった。これらは培養2日目以降に窒素源が枯渇し始めていることを示唆するとともに,培養1日目における15Nの取り込み効率に大きな差を示したアミノ酸は,有機炭素源を使用したときの増殖速度の増加に関連するアミノ酸であると推測している。
研究グループは,この研究成果は,生分解性プラスチックの生産ツールとしても期待されている紅色非硫黄光合成細菌を用いた,持続可能な物質生産に期待されるとしている。