甲南大ら,超伝導特性向上の原因を量子ビームで特定

甲南大学,日本大学,大阪公立大学,高輝度光科学研究センター,大阪大学,摂南大学,理化学研究所,立命館大学,東京理科大学は,層状硫化ビスマス化合物(LaO0.5F0.5BiS2)に微量の鉛を添加することでこの物質の超伝導の特性が向上する原因について世界で初めて特定することに成功した(ニュースリリース)。

層状硫化ビスマス化合物の一種であるLaO0.5F0.5BiS2はマイナス270℃以下で超伝導体になるが,体積のごく一部分しか超伝導体にならない,という問題点があった。鉛を添加することで超伝導体になる温度が約30%上昇し,大部分が超伝導体となる。

しかし,この特性向上の原因は不明だった。一方,この層状硫化ビスマス化合物を7000気圧以上に加圧して高温で焼結させることで,同様に特性が向上することが知られていた。しかし,鉛を添加することと高圧をかけることが同様の効果をもたらすのかどうかについても,不明なままだった。

超伝導は物質の中の伝導電子がペアになることで発現するため,層状硫化ビスマス化合物の固体内部(バルク)の電子の状態を明らかにする必要があった。

研究グループは,量子ビームの一種である放射光を利用した高分解能エックス線吸収分光実験およびエックス線光電子分光実験を行ない,鉛を添加した超伝導体はマイナス223℃以下の低温になると7000気圧以上の高圧で作製された鉛無添加の超伝導体と非常によく似た状態に変化することを突き止めた。

研究グループは,鉛を添加することにより大気圧で簡便に作製でき,加えて高品質な結晶を作ることもできるようになったため,量子技術への応用とSociety 5.0実現を目指した超伝導材料開発分野への波及効果が期待されるとしている。

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