1.はじめに
生成AIの急速な普及に伴い,データセンターにおける通信容量の増大が大きな課題となっている。大規模言語モデル(LLM)の学習や推論では,数万台規模のGPUやアクセラレータを接続する必要があり,システム性能は演算能力だけでなくインターコネクト性能によっても左右されるようになっている。
このような背景から,近年,光インターコネクト技術への注目が急速に高まっている。特にスイッチASICやGPU近傍に光電変換回路を実装するCo-Packaged Optics(CPO)は,次世代AIインフラを支える有力技術として期待されている。
2025年3月にはNVIDIAがGTCにおいてシリコンフォトニクスを活用したCPOスイッチ製品を発表し,これまで研究開発段階とみられていたCPOが実用化フェーズへ移行しつつあることを印象付けた1)。また,近年ではCPO関連の研究発表や業界活動が活発化しており,AIインフラにおける光電融合技術の重要性が改めて認識されている。
2.AIインフラの進化とCPOへの期待
近年のAIシステムでは,単一GPUの性能向上だけではなく,多数のGPUを効率よく接続することが重要になっている。生成AIの普及に伴い,AIシステムのスケーリングはサーバ内の接続にとどまらず,ラック内(Scale-up),ラック間(Scale-out),さらにはデータセンター間(Scale-across)へと拡大している。このような大規模システムでは,インターコネクト技術がシステム性能を左右する重要な要素となっている。
従来のプラガブル光トランシーバは高い柔軟性と保守性を有する一方,高速化に伴い電気配線長や消費電力の増大が課題となっている。このため,光電変換回路を半導体パッケージ近傍に配置するNPO(Near-Packaged Optics)や,さらに集積度を高めたCPOが注目されている。近年の業界動向を見ると,プラガブル光トランシーバ,NPO,CPOは競合する技術というよりも,通信距離や実装密度,保守性などの要求に応じて使い分けられる技術として位置付けられており,用途に応じた最適な実装形態が検討されている。
3.CPOを支える主要技術
CPOを実現するためには,シリコンフォトニクス,光源,光配線,実装技術など,多様な要素技術が必要となる。シリコンフォトニクスは高密度な光集積回路を実現する基盤技術として位置付けられている。また,光源については外部光源方式(ELS:External Laser Source)と内蔵光源方式の双方が開発されており,それぞれ保守性,実装性,光結合効率などの観点から活発な議論が行われている。ELSについては,OIF(Optical Internetworking Forum)を中心に外部レーザーインタフェースに関する標準化活動が進められている2)。さらに,高密度光配線を実現するための光導波路技術や光コネクタ技術も重要である。
近年の研究開発では,シリコンフォトニクスを中心としたアプローチに加え,VCSEL(垂直共振器型面発光レーザー)を利用した光インターコネクトやマイクロコム光源など,多様な技術が提案されている。また,光変調器についても,シリコンの電気光学効果の限界を補うために,電気光学材料(TFLN),強誘電体材料,EOポリマー,III-V族材料とのハイブリッド集積などが検討されている。このように,CPOを構成する要素技術は現在も活発に開発が進められており,現時点では複数の技術アプローチが並行して開発されている。
4.市場動向と業界の取り組み
CPO市場は近年急速に拡大している。Yole Groupは2025年に市場予測を見直し,AIインフラ需要の増加を背景としてCPO市場の成長見通しを上方修正した。CPOモジュールの市場規模は2025年時点で約81億ドル,2035年には226億ドル規模に達すると予測されており,光電融合技術に対する期待の高まりがうかがえる3)。
業界動向として特に注目されたのがNVIDIAの動きである。2025年3月のGTCでは,ELSとシリコンフォトニクスを活用したCPOベースのネットワーク製品が発表され,AIインフラ向け光電融合技術の実用化が現実的なものとなった。これにより,従来は将来技術として位置付けられることの多かったCPOが,実際の製品ロードマップの中で議論される段階へ移行した。
一方で,業界ではCPOのみが唯一の解であるとの見方は必ずしも支配的ではない。NPO(Near-Packaged Optics)や高密度プラガブル技術(XPO)も並行して開発が進められており,通信距離,実装密度,保守性および運用性などの要求に応じて,複数の実装形態を使い分ける方向で検討が進められている。
また,光電融合技術の実用化に向けては,技術開発だけでなくエコシステム形成も活発化している。OIFによる外部光源インタフェースの標準化活動に加え,CW-WDM MSA,LPO MSA,OCI MSAなどの業界活動が進められており,光源,光インターコネクト,モジュールアーキテクチャおよび相互接続性に関する仕様整備が活発化している。これらの取り組みは,AIインフラ向け光技術が研究開発段階から実用化段階へ移行しつつあることを示している。
さらに近年では,帯域密度や消費電力だけでなく,信頼性,保守性およびTCO(Total Cost of Ownership)を含めたシステム全体の最適化が重要視されている。今後のCPO普及に向けては,性能向上のみならず,実装性,運用性および経済性を含めた総合的な技術開発が求められる。
5.実用化に向けた課題
近年,CPOに関する議論は,単純な帯域競争から実用化を見据えた課題へと移行しつつある。特に大規模AIデータセンターへの適用に向けては,信頼性の確保が重要な課題となっている。MetaはCPOシステムの信頼性評価結果を報告しており,MTBF(Mean Time Between Failures)の向上に向けた取り組みが進められている4)。このことは,CPOが研究開発段階から実運用を見据えた技術開発段階へ移行しつつあることを示している。
また,ELSの採用により,高出力レーザー光を供給するアーキテクチャが注目されている一方で,光接続部の管理や保守性に関する新たな課題も指摘されている。このため,光コネクタの清浄度管理や保守手法の確立が重要となる。さらに,CPOでは光エンジンをスイッチASICやGPU近傍に配置するため,高発熱デバイスとの共存が避けられない。光デバイスは温度変化によって特性が変動するため,安定した動作を実現するためのサーマルマネージメント技術も重要な検討課題となっている。
加えて,大規模システムへの適用においては,故障時の交換容易性やシステム可用性の確保も重要な検討項目となっている。今後は光源,実装,材料および評価技術を含めた総合的な技術開発が求められる。
6.おわりに
生成AIの発展に伴い,光インターコネクト技術の重要性は今後さらに高まると考えられる。CPOは有力な光電融合技術として期待されている一方で,実用化に向けては信頼性の確保,高出力光源への対応,サーマルマネージメント,高密度実装技術など,多くの技術課題が残されている。
また,CPOは単一のデバイス技術ではなく,光源,光デバイス,実装,材料および評価技術が密接に関係するシステム技術である。その実用化には,各技術分野の継続的な発展と相互連携が不可欠である。
本特集では,シリコンフォトニクス実装技術,次世代実装材料,高出力半導体レーザー光源および評価技術の最新動向について,各分野の専門家に解説いただく。これらの要素技術がCPOの実用化にどのように貢献するのかを理解する一助となれば幸いである。
参考文献
1) J. Huang, NVIDIA GPU Technology Conference (GTC) 2025, Keynote speech, March 2025
2) Optical Internetworking Forum (OIF): “External Laser Small Form Factor Pluggable (ELSFP) Implementation Agreement,” OIF
ELSFP-02.0, January 8, 2025
3) YOLE Intelligence, “Co-packaged optics for data centers,” YINTR25486, May 2025
4) D. Alduino, “Is CPO Integration Ready for AI Pipelines?”, OFC2026, Workshop
須田悟史
産業技術総合研究所 光電融合研究センター 先端フォトニクス標準評価研究チーム長
略歴
2007年 東京工業大学大学院 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2008年 カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員
2008年 産業技術総合研究所 研究員
2013年 産業技術総合研究所 主任研究員
2017年 産業技術総合研究所 企画本部 企画主幹
2018年 技術研究組合 光電子融合基盤技術研究所(PETRA) 主任研究員
2022年 産業技術総合研究所 プラットフォームフォトニクス研究センター 主任研究員
2025年 産業技術総合研究所 光電融合研究センター 先端フォトニクス標準評価研究チーム チーム長,現在に至る。




