1.屈折率分布レンズの開発
1.1 屈折率分布レンズ材料
屈折率分布(Gradient Index:GRIN)材料とは,材料内部の屈折率をデザインすることで材料中の光線を変化させて,光学特性の自由度を向上させる材料である1)。この特性とレンズの曲率制御を組み合わせることにより,光学設計者に設計自由度を提供し,光学出力の向上や色収差の補正,部品点数の削減など,様々な活用が期待される。一方で,長年の基礎研究にも関わらず,赤外GRIN材料の屈折率差は∆n<0.3程度であり,分散性能は中赤外や遠赤外から3波長の差分を計算して,アッベ数としているが2),GRIN材料の収差補正特性と直結した性能指数は未確立である。
赤外GRIN材料の製造は,ポリマー材料3)やカルコゲナイド系ガラス2, 4, 5)において,異なる屈折率の薄板材料を積層,熱処理によるガラスの結晶化,イオン交換法等が研究開発されているが,現状,ミリメーター以上のサイズが製造可能なのは,積層法と結晶化法である。積層法では,ガラスの高度な張り合わせ技術と熱拡散の制御,成形が必要となり,ガラス材料は基本的に軸方向GRINとなる。
SiGe材料は,実用赤外材料であるSi(n~3.4)とGe(n~4.1)の合金であり,屈折率や透過特性等の材料特性,機械特性は組成比で制御可能である6)。また,ガラス材料と異なり加熱成形や粉末成形は不可能であるが,大きな屈折率と屈折率差,高いアッベ数,生物化学的な安全性が高く,数センチ以上の大型化も可能なことから,カルコゲナイド系の結晶・ガラス材料やポリマー材料とは異なる材料群である。一方で,高い反射率から反射防止コートが必須,製造技術が結晶成長法に限定される難しさもある。SiGe結晶育成技術は,宇宙実験で培った技術をもとに,令和3年度に防衛装備庁安全保障技術研究推進制度にて世界初のGRIN-SiGe結晶の製造及び反射防止膜の形成等に成功している6)。
1.2 GRIN-SiGeレンズ搭載赤外線カメラ試作
現状,防衛用の熱赤外線カメラにおける体積・重量の大部分は光学レンズが占めており,そのコンパクト化,広帯域での収差抑制や更なる狭視野化等が必要である。従来,Geが要所で利用されてきたが,GRIN-SiGeレンズ活用でこれらの課題を解決できる可能性がある。このため,これまでの研究成果を防衛用途に適用して,GRIN-SiGe結晶の大口径化研究等が進められており,その一環としてGRIN-SiGeレンズ搭載カメラ試作機を製造し,熱赤外画像を撮影した。
先ず,SiGe組成比を光軸方向に連続的に変化させた円柱状のGRIN-SiGe結晶を加工し,赤外線帯域向け単レンズを製作した。本レンズは設計波長帯8.0~8.5 µmにおいて,焦点距離24 mm,Fナンバー1.6を実現するよう光学設計を行い,結晶加工および表面への反射防止膜成膜といった工程を経て,実機として製作した。完成したGRIN-SiGeレンズ搭載カメラの外観図を図1に示す。本撮像系により取得した赤外線画像を図2に示す。


軸方向に組成勾配を持つGRINレンズを用いると,光線が材料内部で連続的に屈折し,単レンズでも球面収差を効果的に補正できる。設計では屈折率変化の向きが重要で,光軸方向に進むにつれ屈折率勾配が負となるよう制御する必要がある。凸レンズでは正の球面収差が発生するが,屈折率を軸方向に低下させることで周辺光の過剰な屈折が抑えられ,収差が低減される。今回製作したGRIN-SiGeレンズもこの原理に基づいて設計した。
【月刊OPTRONICS掲載記事】続きを読みたい方は下記のリンクより月刊誌をご購入ください。
本号の購入はこちら




