月刊OPTRONICS 特集序文公開

宇宙光通信に向けた周波数変調型フォトニック結晶レーザー

著者:京都大学 井上卓也, 野田 進  KDDI 総合研究所 石村昇太, 釣谷剛宏

1.研究背景

 近年,宇宙空間でレーザーを用いて通信を行う宇宙光通信が注目を集めており,例えば,地上の通信インフラが不十分な地域や災害地域での高速通信や,地球観測衛星の大容量観測データのリアルタイム伝送,さらには,月面探査活動のための大容量通信の実現が期待されている1, 2)。宇宙光通信においては,数千km~数十万kmといった超長距離の光信号伝送を実現するために,高出力(1 W~ 10 W)かつ高速(1 ~ 100 GHz)な光送信機の開発が求められている。しかしながら,現状の宇宙用光送信機においては,上記の要求を満たすために,図1(a)に模式図を示すように,レーザー光源の出射光を増幅するためのファイバー増幅器や,ビームをコリメートして遠方まで伝搬させるための大口径レンズ等が必要となるため,光送信機が大型・複雑・低効率であることが課題となっている。

 これらの課題を解決しうる新たな宇宙光通信用光源として,フォトニック結晶レーザー(Photonic-crystal surfaceemittinglaser:PCSEL)3~5)が期待されている。PCSELは,光の波長程度の周期的な屈折率分布をもつフォトニック結晶を,光増幅を担う活性層の近傍に配置した面発光型の半導体レーザーである。フォトニックバンド構造の特異点(Γ点等)における2次元定在波共振状態を利用することで,大面積での単一モード発振が実現可能という特長を有しており6, 7),最近の研究の進展により,直径 1~3mmのPCSELにおいて,出力10 W~ 50 Wの単一モード連続動作が実現している4, 8)。さらに,PCSELは,従来の半導体レーザーよりも発振に寄与する光子数が多いことに起因して,スペクトル線幅が極めて狭く(~kHz)9, 10),長距離伝搬後の微弱な信号光に対しても,コヒーレント検波による高感度な信号検出が期待できる。これらの特性を考慮すると,PCSELは,図1(b)に示すように,宇宙光通信用の小型で高効率な光送信機への適用が期待される。

図1 (a)現状の宇宙通信用光送信機の模式図 (b)フォトニック結晶レーザー(PCSEL)を用いた光送信機の概念図

 上記の背景のもと,これまで我々は,高速変調動作可能なPCSELの開発および自由空間光通信への適用の検討を進めてきた11 ~ 14)。2022年にPCSELを用いた世界初の自由空間光通信の実証11, 12)を行った後,高出力連続動作と高速変調動作の両立が可能なデバイス構造の開発を進め,2024年には,送信レンズや増幅器を用いない構成で,10 Gbps を超える振幅変調方式の自由空間光通信の実証に成功した13)。また,より高感度な宇宙光通信の実現を見据えて,PCSELの直接変調時に自然と生じる発振周波数変化を利用したコヒーレント自由空間光通信についても実証を進めてきた14)。以上の取り組みについては,以前の特集記事15)にて解説している。本稿では,上記の取り組みに続く最近の進展として,静止軌道衛星-低軌道衛星間光通信(距離36,000 km)や月-地球間光通信(距離38 万km)等の超長距離宇宙光通信への適用を見据えた,周波数変調型PCSELの開発に関する研究成果16)について解説し,今後の展望を述べる。

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