1.はじめに
波長1 ~ 2.5 μmまでの短波長赤外領域(SWIR:Shortwave infrared)には,分子の基準振動の倍音や結合音が存在する。これらは3~5 μmの中間波長赤外領域(MWIR:Mid-wave infrared)や8~14 μmの長波長赤外領域(LWIR:Long-wave infrared)に現れる基準振動と比較して吸収が弱い半面,物質の内部にまで光が侵入することから,非破壊計測への応用が期待される。SWIR領域の吸収スペクトルは形状が複雑で物質の同定が難しいという課題は,統計的データ処理技術(ケモメトリックス)の進展によって解決されている。SWIRを利用した分光法は1990 年代後半頃から食品,農業,工業,医療診断など様々な分野で活発に応用され始め1),非破壊・非侵襲でリアルタイムに組成の違いや濃度の分布をイメージングできる検査装置の開発も進んでいる。また,近年ではコンクリート構造体の劣化診断2)やnight glowを利用した暗視カメラへの応用3)が期待されている。イメージングには1次元または2次元のアレイセンサが使用される。この時,分子振動の倍音や結合音に伴う吸収は微弱であるため,高感度で低ノイズなセンサが必要になる。
SWIRセンサの受光層には様々な材料が用いられる。光通信用フォトダイオードに用いられるInGaAs はその1つで,InP基板に格子整合して高感度,低ノイズであり量産性にも優れるが,カットオフ波長が1.7 μmであるため分析できる物質が限られる。近年,格子整合系InGaAsでカバーできる1 ~ 1.7 μmまでの波長域をSWIRと呼び,長波長側を2.5 μm程度まで拡張した波長域をeSWIR(extended SWIR) と呼んで区別されることがある。eSWIR用材料にはInGaAs のIn組成を増やしてカットオフ波長を2.6 μmまで長くしたものがあるが,InPに対して格子不整合であることから暗電流が大きい傾向がある。また,均一で高品質なエピタキシャル成長が難しく,チップサイズの大きな2次元アレイセンサへの適用に課題がある。他の材料としてカットオフ波長が2.5 μmになるように組成を調整したHgCdTeがある。2 次元アレイ
センサが製品化されているが,暗電流が高いために大掛かりな冷却機構を必要とする。また,RoHS指令の規制対象物質で環境適合性に課題のあるHgやCdを含むうえに高性能品の入手が困難になっている。長波長InGaAsやHgCdTeに代わる材料としてタイプⅡ量子井戸構造が注目されている。当社はタイプⅡ量子井戸構造を用いてeSWIRからMWIRおよびLWIRまでのセンサを開発している。本稿では,タイプⅡ量子井戸構造を用いたeSWIRセンサの開発状況について紹介する。
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