東大ら,らせんに巻いた電子スピンによる巨大な光のアイソレータ効果を発見

東京大学大および理化学研究所らの研究グループは,物質中に生じるらせん型に配列した電子スピンが,光の進行する向きに依存して光吸収を大きく変化させる機能性を有していることを発見した(ニュースリリース)。

物質中の原子やスピンなどが規則的に整列している時,それらが同じ周期(リズム)で動く集団運動が,物質の性質を決める重要な役割を担っている。スピンの集団運動はスピン波,マグノンなどと呼ばれ,ギガヘルツからテラヘルツの周波数帯にあらわれる。研究グループは,らせん型スピン配列を持つ磁性体中で,スピンの集団運動が磁気カイラル効果を示すことを明らかにした。

物質中の磁石の源である電子スピンは,磁石の向きと同じく矢印で表すことができる。カイラリティを示す構造として代表的ならせん構造と同じように,スピンの向きがらせん型に並ぶ時にも右巻き,左巻きの二通りの配列が存在する。

らせん型に配列したスピンを用いると,原子配列によらず多くの物質にカイラリティを持たせることができる。今回研究グループは,スピンのみに由来した磁気カイラル効果の実現を目指し,その効果が最も期待できるスピンの集団運動の光応答でその効果を検証した。実験では,らせん型のスピン配列を持つ物質であるCuFe1-xGaxO2(x=0.035)を用いて光応答を調べた。

磁気カイラル効果は電気磁気光学効果と呼ばれる現象の一つで,その特徴として(非相反)方向2色性と呼ばれる現象を引き起こす。これは互いに対向して進む光に対して物質が異なる光学応答を示す現象であり,物質そのものがアイソレータと同じ働きをする。

電子スピンの集団運動であるマグノンの光学応答を調べると,光の進行方向に強く依存した光吸収が観測された。その大きさは,光の吸収係数が最大で400%変化するという巨大なもの。この共鳴における方向2色性の存在は,マグノンが通常の磁気応答に加えて光の電場成分にも応答していることを意味する。

電場応答と磁場応答をあわせ持つマグノンはエレクトロマグノンと呼ばれ,近年大きな注目を集めている。エレクトロマグノンにおいてこのような巨大な方向2色性が実現しているのは,カイラリティと磁性が共にらせん型のスピン配列に由来しているため。

更に研究グループは,スピン配列のカイラリティを右巻きと左巻きで入れ替えると,光が吸収される方向が入れ替わることを確認した。また外部磁場によって磁化の向きを反転することで,方向2色性が反転することも確認した。これは,磁気カイラル効果による光応答が高い操作性を持つこと示しすもの。

将来の大容量通信等さまざまな応用が期待されている高周波のギガヘルツ帯からテラヘルツ帯では,光(電磁波)の制御のための技術開発が行なわれている。この結果はアイソレータや,物質の光吸収を外部の電場や磁場で操作可能な光(電磁波)制御素子としての展開が期待できるという。

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