LSIメディエンス,iPS細胞由来の心筋細胞により副作用を高精度に予測するシステムを開発

LSIメディエンスはNEDOのプロジェクトで,ヒトiPS細胞由来の心筋細胞を用いた,医薬品による心循環器系の副作用を評価するシステムを開発した(ニュースリリース)。

ヒト細胞を使用した医薬品開発に期待が高まる一方で,生命倫理や医学的な観点からその創薬への活用は大きな制約を受けている。これらの課題を解決する技術としてヒトiPS細胞の創薬応用が始まっており,世界中の製薬企業はバイオベンチャー企業から市販されているiPS細胞由来の分化細胞を購入して活発な研究を行なっている。ヒトiPS細胞由来心筋細胞(iPS-CM)については,医薬品候補化合物の心臓毒性評価に向けた評価系の構築が進んでいる。

今回,簡易測定システムを用いて,iPS-CMの細胞外活動電位(ヒト心電図に似た波形)を経時的に記録し,被験薬の影響を評価するシステムを開発した。このシステムの特長は,スループット向上のため最大8連のセルに培養したiPS-CMを用いて多検体同時測定を可能にしたこと,新たに開発した測定用の恒温CO2インキュベータに測定装置の計測部分を格納し安定的なデータ取得を実現したこと,多点電極上のiPS-CMから同時取得した波形を短時間で解析し不整脈誘発性の評価に重要なパラメータを自動算出するソフトウェアを搭載したことにある。

更に,iPS-CMの細胞外電位を強制刺激下で取得する機能を追加することで,医薬品候補化合物の特性に合った最適な測定が可能になった。ヒトで致死的不整脈の誘発リスクが医薬品添付文書に記載されている化合物を含めた検討(自律拍動下では31化合物,及び強制刺激下では11化合物)を行なった結果,高い予測率を示したことから,創薬スクリーニングへの有用性が実証された。

医薬品の心臓毒性評価におけるヒトiPS-CMの使用は,近い将来に安全性試験のガイドラインに採用されることが期待されている。また,多点電極システムは心筋細胞以外の細胞にも適用可能なので,医薬品候補化合物の薬効スクリーニング法として創薬の有力なプラットフォームになることが期待される。

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