産総研、有機太陽電池の光電変換効率の理論限界は21%とシミュレーション

産業技術総合研究所ナノシステム研究部門ナノ理論グループ 関 和彦 研究グループ長、計測フロンティア研究部門ナノ顕微分光グループ主任研究員の古部昭広氏らは、新世代の太陽電池の一つとして注目されている有機太陽電池の光電変換効率の理論限界を求めた。

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太陽電池の光電変換効率は、半導体のバンドギャップ、熱による散逸、電荷再結合などの因子により制約されている。バンドギャップより低いエネルギーの光は吸収されず発電に寄与しない。バンドギャップより高いエネルギーの光は熱となって散逸し電圧の低下を引き起こす。光により生成した電荷が電極に到達するまでに再結合して失われると、電流を低下させる。

これらの因子はいずれも太陽電池の電力を低下させてしまうが、無機太陽電池の光電変換効率については、これらの因子を考慮した理論的な限界がShockleyとQueisserにより1961年に示されていた。

これに対して、有機太陽電池に無機半導体の理論を適用するのは妥当ではないであろうと考えられていた。有機物質では正負電荷間のクーロン相互作用が強いため、光を吸収して正負電荷が強く束縛された励起子が生成される。有機物質の励起子の結合エネルギーは、クーロン相互作用に基づいて見積もると最低でも熱エネルギーの10倍以上である。

一種類の有機物質では励起子の電荷分離が十分でないため、有機太陽電池は、正イオンになりやすい有機物質と負イオンになりやすい有機物質の二種類で構成され、これらの物質の界面で励起子となっている電荷が分かれて電気が生まれる。この研究では電荷分離に必要な余剰エネルギーに着目、ShockleyとQueisserの理論の方法で電荷分離に必要な余剰エネルギーを考慮すると電荷再結合の速度が増加し、その結果、電圧と電流が変化することを示した。

束縛状態にある負電荷と正電荷間の距離を1 nm、誘電率を有機分子で一般的な値3.5としてクーロン相互作用を用いると、電荷分離に必要な余剰エネルギーは0.3~0.4 eVと計算された。他の相互作用もあるため、この値は下限であると考えられるが、これまで報告されている余剰エネルギーの最低値とほぼ同じ。

電荷分離に必要な余剰エネルギーとして0.4 eVを用いて光電変換効率の理論限界を計算すると、太陽電池が吸収できる光エネルギーの最小値が1.5 eV(光の波長では827 nm)の場合に最大値である約21%となった。有機太陽電池が最も高い効率を示す光の波長も理論計算により決定されており、光を吸収する有機分子(主にドナー)選択の指針を与えている。

この成果は、有機太陽電池の光電変換効率はどこまで向上できるかという研究開発の指針となることが期待される。

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