SDGsに貢献する光技術となるか? ─太陽光励起レーザーの現状とその可能性

─太陽光励起レーザーの歴史は古いのでしょうか?
太陽光励起レーザーの研究と効率(提供:大久保氏)
太陽光励起レーザーの研究と効率(提供:大久保氏)

基本的なレーザーは,鏡に挟まれたレーザー媒質にランプやレーザーでエネルギーを供給することで発振し,レーザー光が得られます。1960年に最初のレーザー発振が実現しましたが,太陽光励起レーザーはこのランプを太陽光に置き換えただけなので,コンセプトとしては極めてシンプルです。そのため研究が始まったのも早く, 1966年には最初の発振が実現し,直径61 cmのパラボラミラーで太陽光を集光して,1.25 Wのレーザー出力が報告されています。

それから38.5 m2という大きな面積で60 Wが出たのが1988 年,さらに660 m2で500 Wというのが1993年です。とにかく面積のわりに出力が低く,恐らく2003年の6.7 m2 で46 Wが,私が研究を始める前の効率の最高記録ですが,これでも効率は1%未満でした。具体的な応用も無かったせいか,30年以上も低効率のままだったわけです。

私の太陽光励起レーザーに関する研究は,まだ学生だった2005年に主集光系として直径500 mmのフレネルレンズを使って3 mWのレーザーが出たところから始まり,2007年に1400 mm×1050 mmのフレネルレンズで24.4 W,次に2008年に2000 mm×2000 mmのフレネルレンズで80 W,さらに2012年に同じサイズのレンズで120 Wと出力を上げてきました。当然,大きな面積で集光すればレーザーのパワーは出るはずですので,効率の議論も重要です。

主集光系の面積を分母に,レーザー出力を分子にしたのが集光面積効率で,これで太陽光励起レーザーの効率は評価されています。私達は2000 mm×2000 mmのフレネルレンズを使った研究で2012年に当時最高の30 W/m2まで効率を上げましたが,2017年にポルトガルのグループが31.5 W/m2,2018年に中国のグループが32.1 W/m2と,近年は効率で上回る海外勢が出てきました。前者は一度鏡で反射してから集光する方式で,後者は私たちとほぼ同じ方式です。

─太陽光励起レーザーの高効率化にはどんな課題があるのでしょうか
太陽光励起レーザーが直面する3つの課題(提供:大久保氏)
太陽光励起レーザーが直面する3つの課題(提供:大久保氏)

直面する課題は大きく3つあります。まず,太陽光は幅広いスペクトルを持ちますが,一般的なレーザー媒質の吸収スペクトルはシャープなため,そこにミスマッチがあるという問題があります。我々はレーザー媒質にNd:YAGの結晶を使って1064 nmのレーザーを発振していますが,より吸収スペクトルが広いCr/Nd:YAGのセラミックスも用意しています。Cr/Nd:YAGは,400 nm~500 nmと600 nm~650 nmでの吸収がNd:YAGよりも大きくなりますが,その分熱負荷も高くて割れやすいという弱点があります。いかんせん1本作ってもらうのに100万円近くもかかるので,すぐに割らないよう,学生にはもう少し経験を積んでから使ってもらおうと思っています(笑)。

Cr/Nd:YAGには別の問題もあって,太陽光の入力パワ ーが500 WくらいまではCr/Nd:YAGの方がNd:YAGよりも出力もスロープ効率も高いのですが,フレネルレンズを大きくして入力パワーがkWクラスになると,出力・スロープ効率共にNd:YAGがCr/Nd:YAGを上回るという実験結果が得られています。これはCr/Nd:YAGのエネルギー吸収率が高い分,熱影響も大きいためではないかと推測しています。それもあって,我々は負荷の小さい小型の装置でCr/Nd:YAGを使った方が,効率が良いのではないかと現在考えています。

次に集光の問題です。太陽光を大面積の集光系で集めても,小さなレーザー媒質に集光しきることは簡単ではありません。私が研究を始める前の太陽光励起レーザーは,重くて高価な放物鏡や,ヘリオスタットと呼ばれる鏡を組み合わせた集光系で集光していました。光は色によ って屈折率が違うので,レンズを使うと色収差により色ごとに集光点が微妙に変わりますが,ミラーは全ての色が同じ方向に反射するので色収差の影響がないからです。

レーザー媒質のNd:YAG結晶
レーザー媒質のNd:YAG結晶

一方,私たちが使っているフレネルレンズは安価なのに加え,軽量で薄いので大型化にも適しています。では色収差の影響はというと,放物鏡は太陽を集光しているので焦点に太陽の像ができます。レンズは太陽の像に加えて色収差の影響が出るので,焦点のサイズは像に色収差を加えたものになります。これらの大きさを実際に比べたところ,放物鏡の場合,像の大きさは焦点距離2 mで理論上大体19 mmだった一方,レンズでの分布を計測したところ,半値全幅で20 mmくらいでした。これくらいの差なら問題無いと判断して,我々は主集光系にフレネルレンズを採用しています。

そのレンズも最初の頃に作ってもらったものは表面が粗く,集光効率が良くありませんでした。金型を作り直してもらったりもしましたが,それでも精度が出ず,集光効率は50%前後でした。そこで違う会社,日本特殊光学樹脂さんのフレネルレンズを使ったところ,小さいもので80%の集光効率が出ていて,高品質であればフレネルレンズでも高い効率を見込めることもわかりました。

励起キャビティ(中心に入っているのはダミーのレーザー媒質)
励起キャビティ(中心に入っているのはダミーのレーザー媒質)

最後に私が一番腐心している課題が「太陽光を閉じ込める」ことです。普通のランプ励起のレーザーならフラ ッシュランプとレーザー媒質は同じ励起キャビティに閉じ込められているので,光は反射を繰り返すうちにいつかはレーザー媒質に吸収されます。しかし,太陽光励起レーザーは太陽光を取り込むための窓が必要なので,せ っかく取り込んだ光が励起キャビティ内で反射するうちに,その窓から外に出て行ってしまうことになります。これを防ぐため,励起キャビティの構造は工夫を凝らしています。

現在我々が使っているφ6 mm×75 mmのレーザー媒質が入る励起キャビティの内部は,テーパー状の構造に反射ミラーを貼ったような作りになっています。中で光を何回も反射させてレーザー媒質になんとか吸収させようという仕組みです。これを二次集光系,または太陽光キ ャビティと呼んでいますが,この形を色々と工夫することで,効率が上がってくるようになりました。因みに,レーザー媒質の片端にはミラーのコーティングがしてあり,逆側に置いた出力ミラーとの間で光が往復してレーザーとして出てきます。

取材当日は絶好の太陽光励起レーザー日和(?)に恵まれた
取材当日は絶好の太陽光励起レーザー日和(?)に恵まれた

付け加えるなら,レーザー発振に都合の良い晴天は日本ではなかなか無いというのも問題です。フレネルレンズに来た太陽光は直達,つまりまっすぐ来た光しか絞れません。一度雲で散乱して違う角度から来た光は焦点に集まらないからです。つまり,太陽光励起レーザーに雲の量は関係なくて,太陽と自分との間に雲があるか無いかです。一般に太陽光が地上に注ぐパワーは1000 W/m2と言われますが,実際にはいわゆる晴れの日でも太陽光のパワーは600 W/m2ぐらいだったり,台風一過でも800 W/m2程度だったりします。今日のように900 W/m2を超えるなんて本当に貴重です(笑)。

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