─竹末先生は大学でどういったことを教えられてきたのでしょうか?
これまで情報通信は大容量化,効率化という形で進化し,ベストエフォート型で安価にサービスを提供してきました。その中にはこういったミツバチやシャコの価値観は欠落した情報になっています。そこで,こうしたものも全部含めた情報を伝えてイノベーションを起こそうというのが,IOWNに至った着想の大きなポイントの一つです。
そしてもうひとつの大きな変革が「Electronics to Photonics」です。インターネットのトラフィックは2006年から2015年にかけて190倍も増加していて,これに伴うIT機器の電力消費も急激に上がっています。半導体の微細化も限界に達しつつあって,これ以上動作周波数も上がりません。
このままでいくと壁に当たるのが目に見えてきているので,新しい技術的なブレイクスルーを入れて,10年後に向けたコミュニケーション基盤を作ろうという重要な変革が「Electronics to Photonics」です。ネットワークから端末まで,あらゆる所にフォトニクス技術を入れていくことによって,低消費電力で大容量,高品質,低遅延なネットワークを実現しようとしています。
同様に,ネットワーク側のソフトウェアにもAIを入れ,これから進む人口減少に対応して自動化が進みます。IOWNの時代は色々な波長の組み合わせなど,人間の手では解決できなくなるような世界になるので,データセンターから端末まで,こうしたAIを使って最適化し,自律・自己進化するような制御を実現していきたいと考えています。
─IOWNを実現するのに必要な技術とはどんなものですか?
(芝)IOWNを実現するために必要な技術は数多くありますが,主要な要素は3つです。一つ目は「All-Photonics Network」。ネットワーク内から端末やLSIまでを含めてフォトニクス技術を適用します。2つ目の「Cognitive Foundation」は,世界中の様々な拠点にあるICTリソースを連携させるプラットフォームです。最後の「Digital Twin Computing」は,実世界をサイバースペースに再現するだけでなく,インタラクションを可能にする新たな計算パラダイムです。
(工藤)まず「Cognitive Foundation」ですが,NTT西日本と東日本がそれぞれ閉じたネットワークで動いているように,従来のICTリソースはサイロ化され個別に管理・運用されています。IOWNが全世界に広がったとき,サービスの提供を個別に最適化してしまうと,非効率になる部分が出てくることで,エッジコンピューティングやハイブリッドクラウドにおける高度な分散連携を実現する際の大きな障壁となり,全体を最適にコントロールするのが非常に難しくなります。
そこで全体を見て,最初から最後まで通信だけでなく,間に入っているコンピューティングのリソースや,通信以外のIoTリソースも含めて全体最適を作っていくためのサービス機能が「Cognitive Foundation」で,最近よく聞く「オーケストレーター」を使って全体をコーディネートしていくイメージです。これにより,マルチドメイン,マルチレイヤ,マルチサービス・ベンダ環境における迅速なICTリソースの配備と構成の最適化が実現できるもので,NTTではラスベガス市と「Cognitive Foundation」によるスマートシティの実証実験を進めています。