光学ニューロイメージングユニット 准教授
1990-1996 University of Ulm, Ulm, Germany, Diploma (1996) Physics
1996-2001 Technical University Munich, Munich, Germany, PhD (2001) Physics
2001-2002 Max Planck Institute of Biochemistry, Martinsried, Germany
2002-2004 Max Planck Institute for Medical Research, Heidelberg, Germany
2004-2010 Princeton University, Princeton, NJ, USA
Springer Natureが今年6月に発表した「質の高い論文数」ランキングで,沖縄科学技術大学院大学(OIST)が9位となり,東大や京大を上回る日本のトップとなった。
耳慣れぬその校名に驚いた人もいるかもしれないが,OISTは2011年に開校した5年一貫制の博士課程を置く大学院大学だ。卓越した教育と研究により,沖縄の自立的発展と世界の科学技術の向上に寄与することを目的とし,沖縄振興の観点から国が財政支援を行なっている。
学部を設けず,学際的な1つの研究科と1つの専攻のみを設置し,学生,教員の半数以上は外国人で英語を公用語とするなど,これまでの日本の教育機関に無い組織と,外部資金によらず研究を継続できる体制が,こうした成果を生み出してきたとされる。
今回,OISTでバイオイメージングの研究をしているBernd Kuhn氏にインタビューし,その内容とOISTの魅力,そして日本の教育についての考えなどを伺った。
ここではまず,インタビュー中に登場する脳内信号の伝わり方と,その究明に対するKuhn准教授の研究成果について簡単に解説する。
脳内のニューロン(神経細胞)間で信号が伝わる仕組みはこうだ。まずニューロンが発した化学物質を隣のニューロンがその末端で受信して電気信号に変え,その電気信号がニューロンの別の末端まで伝わり,そこから化学物質を発する,という過程を繰り返す。
受信した化学物質が電気信号になるためには,ある電位(電圧)を超える必要があるが,その電位の事を活動電位(アクションポテンシャル)と呼ぶ。活動電位は1ミリ秒程度しか持続しないが,Kuhn准教授の研究成果によって,活動電位を超えた場合と超えていない場合について,0.5ミリ秒のタイムスケールで単一ニューロン内の電位を可視化する事が可能となった。
─OISTに着任された経緯を教えてください
私はドイツ出身で,マックスプランク生化学研究所とマックスプランク医学研究所で物理化学と生物物理,神経科学分野の研究を行ないました。後にポスドクでアメリカのプリンストン大学に移り神経科学と生物学の研究を行ない,そこで大学でのポジションを探していました。
OISTに招待されて初めて沖縄を訪れたのはちょうどその頃,2009年の8月のことです。当時OISTはまさに建設中でした。そこで出会ったOISTの人々は大変に印象深く,情熱にあふれていましたし,日本の政府が沖縄でOISTを設立するために大きな投資をしていることにも感銘を受けました。
実はその時,EUとドイツの大学からとても条件の良いオファーが有ったのですが,私はこれを断り,OISTで研究することにしました。私は一つの専門分野に収まる事なく,ダイナミックでワクワクするような学際的な研究ができる場所で仕事がしたかったからです。ドイツのオファーは生理学の学科でメディカル分野を指向していました。一方でOISTは色々な学問分野間の交流があり,ここなら学際領域の研究が可能だと思ったのです。
私は物理学出身で,その後に物理化学,神経科学を学んだ学際的な環境での経験があるので,OISTは個人的に最適な場所だと感じました。エキサイティングで国際的な場所です。こうした学際的な環境を鮮明に打ち出している事と,研究を支援する日本政府のサポートが,研究機関としてのOISTの一番の強みです。もし,優秀なスタッフがいたとしても,経済的な支援が無ければ良い研究はできません。良きスタッフと経済的な支援の両方を備えて,はじめて大きな成果を得ることが可能となるからです。